投稿日:2021/03/30
THEATRE for ALLにアーティストとして参加するAR三兄弟の川田十夢さんと、車椅子YouTuberとして活躍し、THEATRE for ALLのナビゲーターを務めていただく寺田ユースケさんに、お話を聞きました。
「かぼちゃの馬車のようなすごい乗り物」車椅子で人生が変わった
――川田十夢さんはAR三兄弟として、拡張現実を使った様々な表現活動をされているアーティストです。寺田ユースケさんはYouTuberとして寺田家TVを運営しているクリエイターで、生まれつき脳性麻痺があります。 またTHEATRE for ALLのナビゲーターを務めてくださってもいます。まず、今回のプロジェクトのお話を聞く前に、日本での障害者の置かれている立場についてどう思われますか。
寺田:ちょっと自分の話をすると、20歳の時に両親から車椅子に乗ってみたら、と言われたんです。でも僕の中で車椅子というのは障害がある人が乗るものだからと思ってたんです。もちろん当時から自分も障害者なんですけど、僕は違う、と思っていて、ずっと断っていたんです。結局乗らないと大学生活ができなくなっていたので、とりあえず一週間だけ乗ったんです。すると人生が変わったんです。より可哀想と思われるだろうと思ってたんですけど、乗ったことによって移動範囲がものすごく広がった。近くのコンビニにも車椅子で行けるようになって、カラオケにも行ける、可愛い女の子にもアプローチが出来るようにもなった。身だしなみも整えて綺麗になっていって、シンデレラに出てくる、かぼちゃの馬車のようなすごい乗り物に出会ったことで、人生がポジティブになった。そこからイギリスに一年間語学留学にも行きました。
川田:すごい行動力だね。
寺田:その時は必死で、とにかく何かしたい、この体で生まれてきた意味を知りたいと思っていて。当時は健常者の友達と同じように就職活動をする為には英語くらいペラペラじゃないと、多分戦力にならないだろうなと考えていたんですよ。それでイギリスに一年行って、英語をマスターして帰ってきた。
障害者も笑いが取れる。イギリスと関西で感じた意外な心地よさ
川田:英語圏に行って、特にロンドンは、体の不自由な人に対する接し方が日本とは違ってないですか?
寺田:全然違いました。それが一番大きくて。ロンドンでたまたま車輪が溝にハマってしまって、ちょっと動けなくなった。そのとき、ほんの一瞬で、2、3人が駆け寄ってくれて、車椅子を上げてくれて、直してくれて。そもそも食事をしていても、肌の黒い人もいれば、白い人もいれば、アジア系の人もいる。つまり、ダイバーシティだったんです。当時2012年くらいで、ダイバーシティという言葉も今ほど広まっていないときだったんですけど、すごいそれが心地良くて。
川田:車椅子の人に対する見方というか、コミュニケーションが全然違いますよね。イギリスのコメディで車椅子の人がバンバン笑いを取っているのがありますよね。
寺田:そうなんです。本当にそうで、僕その雰囲気が好きだったんです。みんな笑って良いんだって。「Mr.ビーン」というコメディで、車椅子ではなかったんですけど、視覚障害の人がバスに轢かれそうになるコントがあって、これをみんな大笑いしちゃっている。結構それに衝撃を受けて。
川田:日本だとそれを笑いにしちゃいけないという、それって寂しいことですよね。
寺田:本当にそうですね。それを感じて当時こんなお笑いがあるんだって、衝撃的でした。大学の時に仲の良い友達に、ちょっとお酒を飲むと、関西だったんで、「飲酒運転ちゃうんかい」みたいな感じで、ちょっといじってもられるようになった。人生で初めていじってもらえたと思って、すごく嬉しかったんですけど、真面目なんで、飲酒運転になるかどうか本気でスマホで調べちゃったんですよ(笑)。
「大丈夫だから、車椅子押してよ」って言ったら、「飲酒運転補助罪で捕まる」って、置いてかれるという。関西のノリ。
川田:関西では突破出来るのかもね。唯一ね。
スーパースターがその分野でいないから、笑いにしにくい
寺田:それがすごい心地良かったんですけど、仲間内の5、6人の外に出ちゃうと同じことやっても一気に引かれちゃうんですよ。これは僕が変えるしかないと当時思い始めていて、お笑い芸人になろうと思って、その道を進んだんです。でも肝心なことに気がついて。障害を笑いにしたい気持ちは誰よりも高かったんですけど、シンプルに誰よりもトーク力がなかった(笑)。
川田:全然、喋れているけどね。面白いけれど。車椅子でイギリスに行って、人の関係性を突破出来るのがユーモアとかお笑いだと思ったのは興味深いね。。
寺田:でも、日本でも、お笑いを観ていた時に、自分の体の特徴で笑いを取っていらっしゃる方はいて、
何が違うんだろうと思ったんですよ。
川田:本当だよね。
寺田:体の特徴を笑いにしたくない人もいっぱいいるけど、笑いにしたい人は笑いに出来ていて、OKな空気。でも障害だとOKにならない。何故かと思った時に、スーパースターがその分野でいないと思った。それになりたかったんですけど、残念ながら僕ではなかった(笑)。
拡張現実でつくる「演者側の気持ち」になるというバリアフリー
――THEATRE for ALLに何を期待しますか。
川田:実は、ショックだったことがあって、コロナの最初の頃、一番僕らに伝わったエンターテインメントや芸術の世界の暗いニュースって、シルクドソレイユの俳優さんが解雇になっちゃったこと。あの人達も健康な体かもしれないけど、酷使してようやく覚えた技が人前で披露できなくなっちゃった。すごい自分のことのように悲しくて。あの人達の動きや体ってそれだけで尊いものだから。その人達の生活のちょっと足しになるような財産にならないかなと、その時に思って。THEATRE for ALLでも、そういうことができないかなと思って、今回の作品をつくりました。
寺田:長い年月をかけて、保ってきたものだから。シルクドソレイユの俳優さんが、30年かけて培ってきたもの。
川田:僕らが出すのは、「AR三兄弟の素晴らしきこの世界(バリアフリー編)」という作品なんですが、身体に経験を宿した人間の動きとフォルムをデジタル化し、それを拡張現実的に活用する術を開発してみせるんです。例えば、お相撲さんの動きを取り入れて、寺田さんの身体のアバターに組み込んで、動かしてみたり。巨大化させてみたり、小さくしてみたり。
寺田:こんなこともできるんだって思いました。
川田:ダンスとか最初から自分が出来ない前提だと、観ることにあまり興味なくなっちゃうじゃん。拡張現実で自分が嘘でも動いているのを見るとちょっと興味が湧いてこない?
寺田:川田さんと初めて会ったのは2019年の「NO BORDER」(※)で、感動して、今日はお会いできてとても嬉しいんですが、今、川田さんが言われたこと、それがまさに「NO BORDER」で体験できたことなんです。
寺田:ダンスって今まで興味なかったんですよ。あの映像、アバターが踊っているのを見て、僕が踊ったらキレキレになるんだって。そういう喜びがありましたね。
川田:必ずしもシアターに車椅子が入れる客席をつくることだけがバリアフリーじゃなくて、演者側の気持ちになってもらうっていうのも一つのバリアフリーだと思いますね。
設備自体はボコボコでもいい。心のバリアフリーで、みんなが笑える世の中に
寺田:バリアフリーって何なんだって考えた時に、設備の問題のバリアフリーと、よく心のバリアフリーとも言われているものがありますよね。僕は心のバリアフリーの方が大事だと思っていて、人の接し方、コミュニケーションがもっと柔軟で、活発になればいいなと思います。
だって、どんだけ段差があろうが、そこで持ち上げてもらったり、それこそ助けてもらったりする経験ってめちゃくちゃ嬉しいし、僕自身もそのコミュニケーションのおかげで47都道府県を巡ったので。3年かけて、合計1,000人以上の方に車椅子を実際に押してもらって、触れ合わせもらって。その時の経験は絶対に忘れられないし、むしろ車椅子だから出来た経験なので。だから設備自体はボコボコでも良いと思っていて。だから、今回のTHEATRE for ALLのAR三兄弟さんの作品とかを通して、僕らのようなマイノリティとこうやって一緒に何かやろうと思っていただけるような心の人達がいっぱい増えていってほしい。そうしたら、絶対みんな笑える世の中になるなと思っています。
川田:僕と寺田君のミッションとしては、爆笑を取りたいね。
寺田:僕の顔も爆笑を取りやすい顔にしてもらいたいですね。面白い顔に(笑)。
(注釈)
NO BORDER…最新3Dスキャナーで3Dモデルを作成し、観客自身のアバターが主役となり、ステージ上でダンスを踊る超新感覚エンターテイメント。土屋敏男さんが企画・総合演出、AR三兄弟が企画・技術開発を行いました。
(ライター:神田桂一 撮影:成田敏史)