投稿日:2024/03/01
はじめまして。THEATRE for ALL 編集部の汐と申します。普段は別ペンネームでライトノベル作家、または漫画原作などをしております。学生時代は演劇を専攻にしており、社会人劇団の役者やスタッフとしてもその後活動しておりました。双極性障害II型があり、今回サニーバンク会員としてインタビュー取材に参加させていただきました。気分の乱高下と戦いつつ、頑張って生きてます。どうぞよろしくお願いいたします。
「100の回路」シリーズとは?
回路という言葉は「アクセシビリティ」のメタファとして用いています。劇場へのアクセシビリティを増やしたい我々の活動とは、劇場(上演の場、作品、そこに巻き起こる様々なこと)を球体に見立てたとして、その球体に繋がる道があらゆる方向から伸びているような状態。いろんな人が劇場にアクセスしてこれるような道、回路を増やしていく活動であると言えます。様々な身体感覚・環境・価値観、立場の方へのインタビューから、人と劇場をつなぐヒントとなるような視点を、“まずは100個”収集することを目指してお届けしていきたいと思っています。
今回お話を聞くのは、劇場でのバリアフリー化に向けて活動していらっしゃる南部 充央さんです。
南部充央(なんぶ みつお)
障害者も参加できる舞台芸術の企画制作、運営に携わる。公益社団法人全国公立文化施設協会コーディネーター。2016年国際障害者交流センターと日本財団パラリンピックサポートセンターによる「障がい者の舞台芸術表現・鑑賞に関する実態調査」のプロジェクトチームに参画、各種舞台のアドバイザー・研修を務める。2019年ピン・チョン演出「生きづらさを抱える人たちの物語」(東京芸術劇場)制作ディレクター。2020年日本博プログラム「障害者の文化芸術創造拠点形成プロジェクトDANCE DRAMA」制作統括。日本障害者舞台芸術協働機構代表理事。株式会社リアライズ取締役。著書に「障害者の舞台芸術鑑賞サービス入門 人と社会をデザインでつなぐ」(2019/NTT出版)がある。
子供時代からアートに親しんでいた、という訳ではなくむしろスポーツ少年だったという南部さん。そんな南部さんが舞台に関わる仕事をしようとしたきっかけとはなんだったのでしょうか。
きっかけはアルバイトから。気付けば首までどっぷり浸かっていった
南部さんの現在の活動は、国際障害者交流センター、ビッグ・アイの鈴木京子さんとの出会いから始まりました。
「国際障害者交流センター、ビッグ・アイの鈴木京子さんと会ったのがきっかけだったんです。世界民俗芸能祭(大阪府堺市)というのがあって、僕はそこのバイトに来て欲しいって言われたんです。ベルギーの猫パレードとか、いろんなものがあって、そこで国内の芸術っていうよりかは海外の芸術に触れる機会をいただいて。で、そこに市民参加の人たちもいらっしゃったんですけれども、そこにもちょっと風変わりな、今思えば多少の障害のあった人たちなのかなっていうような方たちも参加していまして、その人たちとご一緒したっていうのが、最初のこの世界での仕事なのかなと思いますね」
その後、1999年に今度は堺市に国際障害者交流センター、ビッグ・アイという施設ができます。ここは障害の有無にかかわらず、誰もが文化芸術を享受できるという理念の下、約1,500人が入れるホールや研修室、宿泊施設も併設している施設でした。
そこで南部さんは他の仕事もしながら、舞台芸術の仕事をアルバイトから始めました。
「(ビッグ・アイでの仕事は、他の仕事と比べて)とても面白いなと思って、どんどんこの世界に漬かっていった。気付けば片足だけでなくてもう首までどっぷり漬かって、アルバイトではじめた仕事が本業になってしまって。
アルバイトの立場から現場の運営を回すポジションになり、そこから制作のディレクターになり、さらに企画を考えるようになっていって・・という形で関わり方が変わっていきました。この業界のことも障害のある人とのコミュニケーション方法についても、学校とかで教えてもらったこともなく、全て現場と、その当時のまわりの人たちから教わっていって、創り上げていったっていう感じでした」
ひょんなきっかけから芸術の世界の面白さにはまった南部さんに、何事もこの面白いという感覚が大事なのだろうと感じさせられます。私も学生時代、世田谷パブリックシアタ―の演劇祭にボランティアとして参加した際、とても楽しく心が昂ぶったのを思い出しました。
でも、何がそこまで南部さんを舞台と障害のある方との仕事に惹きつけたのでしょうか。
「同じタイプの人ばっかりが集まっても共生とは言わないんですよね。異なる人たちが集まるからこそ共生っていう言葉になる。これは僕の感覚なんですけれども、同じタイプの人ばっかりだとつまんなかったんでしょうね。異なる人たちがいるっていうことを理解していくと、自分とは違う人だから尊敬できたり、自分とは違うからすごいなって」
違なる人の存在を理解する場所、それが南部さんにとって、「舞台」だったようです。
「例えば、車椅子に乗っている人や精神、発達・知的障害のある人たちがダンスや楽器演奏するワークショップに関わらせていただく中で、ちょっとずつ当事者の人たちが私と会話をしてくれたり、そういうコミュニケーションっていうのが面白いなって」
実は自分の事は好きじゃない、でも他人のことは好きなのかもしれない、と南部さんはおっしゃっていました。今も昔も仕事の中でそういった新しいコミュニケーションを探ってらっしゃるようです。
「昔は、そんなこと考えたことはなくてですね。だけど誰だってあるんじゃないのかな。周りに興味のある人っていうのがいて。その人と仲良くなってみたいなって思うからこそ、共通の話題ってなんだろうって思って会話を投げてみたりとか。共通の話題があるとそこから発展して喋るとかっていうようなことだと思うんですけれども、それが別に僕の場合は車椅子に乗ってる人とか、聴覚障害があってコミュニケーションの手段が手話の人には筆談でとかって。この人、何してるんだろう、何が好きなんだろうなとかって思って」
障害者と接する中で、言ってはいけないこと、NGワードを避けるより、個々人とのコミュニケーションの中で察することはあっても自分とは違う文化の人達だ、という感覚が薄かったと南部さんはおっしゃっていました。
劇場の役割って聞かれたらコミュニティの拠点ってイメージ
「(コミュニケーションのツールは)別にスポーツでもなんでもよかったかと思うんです。僕は文化芸術の専門家ではないので偉そうなことは言えないなと思うんですけれども、みんなが集まれる場所っていう、きっかけとかツールとかっていうのが文化芸術なんじゃないのかなっていうふうに思ったんです。そこには来ていいよ、参加してもいいよっていうような位置付けっていうのが劇場なのかなと。表現者としてでもいいですし、鑑賞するだけということでもいいんだけれども、とにかくそこには君がいてもいいんだよ、参加してもいいんだよっていうものなのかなっていうふうにずっと思ってたんですよ」
芸術愛好家ばかりが来て、演劇とか音楽とかを見て批評するだけではなく、ここにはいろんな人が来てもいいんだよっていう場所のツールが演劇だったりとか、ダンスだったりとかっていうだけじゃないのかなとおっしゃる南部さん。
個性とか癖みたいなものを表現として捉え直す舞台の土壌が、劇場を誰もが参加出来るコミュニティの拠点としての働きを作り出しているように感じました。
その考えを裏付けるように、南部さんはこんなお話をしてくださいました。
「2018年に日本財団DIVERSITY IN THE ARTS主催で、障害のあるアーティストたちがプロを目指していくための合宿型トレーニング「サマースクール」がビッグ・イアで開催されたんですが、そのときの講師の一人がアメリカのミュージカル劇団「Phamaly」でした。Phamalyの芸術監督であるリーガン・リントンは座学の研修プログラムも実施してくれたんですけれどもね。そのときに、舞台の表現者としてプロになるためには何が一番重要だと思いますか、と参加した人たちに質問したんです。プロとして活躍するために何が必要なのか、どうすればプロになれるのか、いろんなオーディションに勝つためには、とかね。
その時にリーガンが伝えたのは「個性」でした。人と一緒だったらたぶん選ばれない。舞台の上に立つ人っていうのは、やっぱりずばぬけた個性があり、魅力がある。プロとして舞台に立ち、表現者として成り立つためには個性が重要。それが例え障害と呼ばれるものだとしても、それを魅力に変えて表現できるのであれば、それはあなたの武器になるよっていう話をされたときに、障害っていうのはマイナスではなくて、舞台の表現者にとっては武器になるんだ。そんなふうに解釈したとき、それはもしかしたらプラスなんじゃないのかなって」
障害は個性であり他の人と違うことはプラスである、そんな考えに南部さんは深く共感したそうです。
回路53
表現や舞台において、障害はマイナスではない
福祉だけでは続いていかない。経済的な考え方はより大きく広がる為に必要
共生に対しフラットな見方をし、障害者の個性について武器でもあるという南部さんですが、こうもおっしゃっていました。
「僕の根本には産業とか経済とかっていう考え方が、やっぱりあるんですよ。もちろん福祉は必要だと思う。でも、1人でも多くの人が税金を払えるような社会になったらいい。社会で障害を感じる人たちが福祉に頼って生きるんではなくて、彼らも納税者になれる社会になったらいいなというふうに思うんですよね。福祉が必要だっていうのは理解するんですけれども、社会で自分が役に立っているということが生きがいになると思う。
自分がここで活躍できるっていうところがしっかりとあるっていう社会になるためには、障害者や社会に障害を感じる人たちも活躍できるような、参加できるような環境っていうのがやっぱり要るんじゃないのかなというふうには思いますね。福祉だけでやっている以上は続かないんじゃないのかなと思うんですよ」
南部さんには『障害者の舞台芸術鑑賞サービス入門 人と社会をデザインでつなぐ』(NTT出版)というご著書があります。
ご著書の中でも語られている、舞台芸術のバリアフリー化、その本随についても、伺ってみました。
「障害のある人たちの参加する環境づくりが福祉的な観点に止まっている以上、民間企業は積極的に参入しないし、新たな雇用を生むような経済に発展していきにくい。そう考えたとき、助成金や補助金だけに頼ってしまうというのは、健全ではないのかもしれない。
そうではなくて、そこに関わる人たちがきちんと対価がもらえて、産業に発展していく可能性があると、民間企業も参入してくる。民間企業が参入してくると、価格やサービスの競争がはじまり、より良いサービスが低価格で提供されていく循環が生まれる。そういう持続可能な形になっていくことが、誰もが参加できる環境づくりっていうものがより大きく広がるためには必須なことなのかなっていうふうにずっと僕は思っているんです」
回路54
バリアフリーの意味が変わってきた
バリアフリーの意味は小数の障害者の為だけではなくなってくる
バリアフリーは、今や少数者のものではありません。
「障害者のためにっていうようなことが、法律が整備されたおかげですごくクローズアップされていると思うんですね。障害のある人って国民の7.4%だと厚生労働省が発表している。7.4%という数字だけをみると民間企業が参入して産業に発展していくのはなかなか難しい。でも、障害を社会的視点にシフトしてみると、社会に障害を感じている人はもっとたくさんいる。手帳を持っている人だけを障害者と捉えるのではなく、社会に障害を感じる人たちが障害者っていうふうに考えたときには、高齢者や言葉がなかなか通じない在日外国人も社会的な障害者と言える。
高齢者だけをとっても、2050年には国民の3分の1が高齢者になるっていう予測が出ている。国民の3分の1がマーケットなら、民間企業も考え方が変わるかも分からない。ずっと税金だけでまかなうのではなく、うまく産業に発展させ、ビジネスに変えていくことで循環型の誰もが参加できる環境が作っていけるんじゃないのかなっていうふうな考えを持っている」
南部さんが考える、一歩先のバリアフリー化に必要なことはなんだろうという疑問から、今の福祉と(経済)社会の微妙な齟齬も含めて、共生社会のゴール、目指すべき点についてお聞きしてみました。
「共生社会ってどんな社会なんだろうなって思ったときに、これはなかなか想像しにくいなと思ったんですよ。ユートピアみたいな世界をイメージするかも分からないんです。もともと共生社会はある。現在も共生社会ですよね。共生って、だから異なる人たちと共に時間と空間を一緒にするって、共生の定義ってたぶんそうだったと思うんです。マジョリティーの社会にマイノリティーの人を入れてあげようみたいな感覚になってしまうとダメかな。
そうではなくて、共生っていうのはもともとあるものっていうか、もう前提なんですよね。前提の中で、その度合いっていうのもをどこまで高めていけるのかっていうのが一番大事なのかなと」
その中で、新参者を排除するような動きはしたくないとも南部さんはおっしゃいます。その理由は、経済活動もまた新しいものとのしのぎあいの中からいいものが出来てくるからです。
回路55
新しい人の参入が変化を生む
「新しい人たちが関わってくることによって、全然気付かなかったやり方とか方法とかアイデアっていうものが出てくる可能性が広がる。いつも研修会とか勉強会とかをやると、同じ顔ぶれの人たちばっかりが集まってくる。例えば、今まではなかなか参加しようとしてくれなかった舞台技術者たちにもこのことを考えてもらう。今まで関心がなかった人たちに関心を持ってもらい、新たに関わっていただくにはどうしたらいいんだろうといったことを考えます。これもめちゃくちゃ大事だと思います」
障害者の劇場へのアクセシビリティーを構築する為には、フラットなものの見方、面白いと思う心、そして常に新しい風を取り入れることが大切。
学生時代に授業で劇場・ホール実習をしていた際に、良い劇場空間を作る為にどうしたらいいか意見を交わす授業があったのですが、その時の自由闊達な意見交換のひとつにやはり福祉(公共費用)だけに頼らないという意見があったことを思い出しました。
南部さんご著書
『障害者の舞台芸術鑑賞サービス入門 人と社会をデザインでつなぐ』
▶︎https://cutt.ly/xhv0v8f
執筆者
汐
2017年ライトノベル作家としてデビュー後、漫画作品の原作者などを務める。大学時代は演劇や劇場に関した専攻を学び、社会人劇団の役者、スタッフとして長く活動してきた。
協力
サニーバンク
サニーバンクは、株式会社メジャメンツが運営する障害者専門のクラウドソーシング サービスです。「できない事(ShadeSide)で制限されてしまう仕事より、できる事(Sunny Side)を仕事にしよう。」をテーマに、障害者ができる仕事、障害者だからこそできる仕事を発注して頂き、その仕事を遂行できるサニーバンク会員である障害者が受注するシステムです。
障害者が働く上で「勤務地の問題」「勤務時間の問題」「体調の問題」「その他多くの問題」がありますが、現在の日本では環境が整っているとはいえない状況です。障害があるために働きたいけど働くことが困難、という方に対して、サニーバンクでは「在宅ワーク」という形で無理なくできる仕事を提供しています。
※本記事は、2021年7月2日に取材執筆を行いました。記載されている情報は執筆時点のものとなります。