投稿日:2024/04/16
幅広いファン層をもつ、ギャグコメディの傑作「パタリロ!」。加藤諒さんが座長・主演をつとめた舞台シリーズ3作目、舞台「パタリロ!」~霧のロンドンエアポート~は、EPAD×THEATRE for ALLでのバリアフリー配信(手話・バリアフリー字幕・音声ガイド)がスタートした。
2.5次元ミュージカルとしても注目される本作は、情報保障が加わったことで、よりたくさんの方に楽しんでいただけるようになった。主演の加藤諒さんと、バリアフリー版の手話弁士をつとめた緒方れんさん、映像制作を担当した今井ミカさんをお招きして、本映像の魅力と「パタリロ!」の手話の面白さについて語っていただいた。
もう他人事じゃない。7年演じ続けてきたパタリロと座長としての想い
-まずはじめに、加藤さんへ。「パタリロ!」という舞台作品についてお聞かせください
加藤)パタリロは、もう7年くらい演じているんです。僕にとって、同じ役を7年演じるという経験はパタリロしかないので、他人事ではないような存在になってますね。演出の小林顕作さんにも、パタリロというみなさんがよく知る2次元のキャラクターを生身の人間である僕が演じるにはどうしたらいいか?というのをご相談させていただきました。原作者の魔夜峰央先生からも、小林顕作さんからも「パタリロに自分が寄っていくんじゃなくて、パタリロというキャラクターを自分に寄せていったらいいんじゃないか」と言っていただいて。それで、少しずつ、演じていくものが見えていったような感じですね。
なかでも今回の「霧のロンドンエアポート」というストーリーは、ちょうどバンコランやマライヒなど、僕以外のキャストが全員変わった作品です。今まで僕は、先輩方の中で演じさせていただいていたんですけど、今回は自分が引っ張っていかないといけないなっていう立場だったので、今まで以上に座長というものを意識して、「舞台の『パタリロ!』ってこうだよ!」っていうのを提示していかないといけないと思いながら演じた作品ですね。
-手話制作チームの緒方さんと今井さんは、元々『パタリロ!』という作品に親しみはありますか?
緒方)私はですね、子供の頃少女漫画が好きだったんですよね。「パタリロ!」は、たまたま弟が買って読んでるのを見て、「えーなにこれー」っていう第一印象でした(笑)
一同)(笑)
緒方)大きくなって、漫画だけではなくてアニメになったりして、面白いなぁって。でも、まさか、仕事のご依頼があると思ってなかったので、改めて読まなきゃ!ってなりましたね(笑)
今井)私は、聾学校に通っていたんですけども、漫画をすごくたくさん読むんですよね。みんなが使う第一言語は手話で、日本語は第二言語です。なので、小説は、文字が多くて、なかなか難しいんですけど、やはりギャグ漫画とかお笑い系は、動きを見たり、吹き出しで言葉を覚えていったりしやすくて。パタリロを読んでいる人は結構多かったなぁ、というのを覚えています。
舞台上に、“同時多発”的に起きる出来事を伝える。舞台手話の面白さと難しさ
-加藤さんは、バリアフリー版をご覧いただいて、どのように感じられましたか?
加藤)パタリロってすごく早口だし、僕も滑舌があまりいい方じゃないんですけど、字幕や手話で伝えてもらうことによってろう者や聞こえにくい方々に、よりクリアにこのセリフを届けられるかなって。それから、緒方さんの表情がすごく豊かで、しかも、おひとりで全ての役を演じられているのがすごいなって思って。「霧のロンドンエアポート」は、僕にとって、もう何回も演技して、何回も観た作品なのに、すごく新鮮に観ることができました。
昨年放送されていた『silent』っていうドラマをきっかけに、最近手話とエンターテイメントというものがより広がっていっている気がしています。今まで舞台を海外で上映する際は、字幕上映はあったのですが、手話も加わると、よりエンターテイメントとして、楽しいものになってるなって思いました!
-ちなみに、映像や映画に手話をつける、というのは通常どのような流れでおこなわれるのでしょうか?
今井)通常、映像に手話を付加する場合は、音声のみの映像に日本語字幕をつけ、台本の原稿を手元におきつつ、内容を見ます。そして、日本語と手話は違う言語なので、「日本語ではこんな風に言ってるけど、これどういう意味なのかな」と考えます。その後に、公演の制作スタッフの皆さんにオンラインで確認の機会をいただき、日本語の意味や意図を確認する。そのあと下訳といって、出演者から手話で1〜2時間ぐらい撮影をしたものをもらい、私の方で「日本語と手話の意味が本当に合致しているのか」「ズレはないか」「今誰が話しているのか」を確認していきます。
映像の画面だと、映っていない人が話していることもあります。手話言語にはロールシフトといって、話者ごとに視線や身体の向きを変えて話すといった表現があり、方法をどうしようか相談したりもします。そのあとは演者さんにお任せして、また手話の表現を作っていく。本番はグリーンバックで撮影し、編集、合成していくという流れで映像を制作します。
緒方)ちなみに、手話の表現についてという意味で、加藤さんは、“手話弁士”というものをご存知ですか?
加藤)手話弁士、わからないですね…
緒方)手話弁士っていうのは、例えば映画を上映している時に、私が画面の横に立って、映画の内容をお客様に向かって手話で説明するっていうものなんです。2時間くらいの映画だったら一人でやるんですけども。ここ10年ぐらいやっています。そういう経験もあったので、今回、舞台作品に手話をつけるというお話をいただいた時、実ははじめてだったんですが、「とりあえずやってみます!」ってお受けしたんですけども。加藤さんが演じられている映像を見て、「いやこれ無理じゃないか…」って思いましたね。
一同)(笑)
緒方)やっぱり手話を考えていくということも、映画と舞台って違うんだなってことを、改めて感じたんですよね。
映画って編集して切って繋げてやっているんですけども、舞台では同時にいろんなことが起こる。動きもそうですし、出演者もたくさんいらっしゃいますし、いやーこれは本当にできるんだろうか…どうしよう、断ればよかったなぁって思いました。(笑)
一同)(笑)
緒方)舞台と手話、最近少しずつブームにはなってきてるんですけども、私自身、舞台に手話をつけるのは、初めての体験だったので、とにかく稽古を重ねて、やってよかったなって思います。初めての作品で、加藤さんとご一緒できたのは本当にありがたいです。
加藤)こちらこそですよ本当に!
ギャグも含めて、手話文化と日本語文化を橋渡しする!聴こえる人も聴こえない人も楽しめる手話表現を目指して
-今井さんは、手話制作にあたり何度もシーンをご覧になってきて、面白すぎて、今でも思い出し笑いをされるとか。
今井)はい。(笑)面白すぎて。
加藤)このお芝居は、小ネタが多いですよね(笑)
演者がみんな貪欲なんですよ。だから、みんなウケを狙っているというか(笑)台本にないアドリブも多くて、“美少年サウナ”のシーンなんかは日替わりでいつも違うことをやってたりしてたんですよね。
-『パタリロ!』という作品の手話表現を考えていく過程について、教えてください。
今井)苦労したところ…いっぱいあるよね(笑)
緒方)うん(笑)
一番大変だったのは、2つのシーンかな。1つ目は、最初の結婚式のシーンの後。ワチャワチャって出演者が多くて、あちらこちらで色んなことが起きているのを、全部私が一人で何役も演じわけないといけない。今誰が話してるかを演じ分けるのはすごく大変だったんで、全部は無理だよねって、できるだけまとめて表現ができるように工夫をしました。
もう1つは、月影先生の登場シーン。月影先生がめちゃくちゃ面白いのは当然わかるんですけども、手話でどうやって伝えようかってところは非常に苦労しました。
-加藤さんは、今回手話のバージョンをご覧になって、特に印象に残ってるシーンありますか?
加藤)“麻薬”っていう表現が直接的だなって。めっちゃ面白かったです(笑)表情込みですごく面白いなって思いましたね。この作品中でも、麻薬はひとつの象徴なんです。昭和にこの漫画が作られた時に、麻薬のことを扱うってこと自体が、結構すごいことだったんじゃないかって、僕たちの中でも話に出たぐらいだったので。どう表現するんだろって思ったら、注射で打つ動作をされていて。
緒方)確かに、手話は、言語として、はっきり形を表現するんですよね。日本語は多分、ぼんやり遠まわしに言うのだけれど、手話は直接的に表現することが多い。
性的な表現がいくつか出てきましたよね。そのときに何気なくダイレクトに手話で表現してしまって、ちょっと待って本当にこれ出しちゃって大丈夫?ちょっと曖昧にしなきゃいけないかな?って調整したり。性行為についての表現もギリギリまで悩みました。決定的な説明に至るギリギリ手前の表現にするような工夫をしました(笑)
一同)(笑)
加藤)でも、改めて「パタリロ!」の手話バージョンを見て、この時代に、すごい作品をやってるなって思いましたね(笑)
SMシーンのようなものもありますよね。そういうところの表現って難しくないですか?
緒方)そうですね。でも、SMは、手話としては、とても演りやすかったです。
加藤)演りやすい!??
緒方)そうなんですよ(笑)
今井)動きっていうのは、演りやすいんです。逆にセリフの方が難しいんですよ。日本語の言葉遊び、ダジャレを手話に変えて、ろう者に面白く伝えるのはとても難しい。動きだと(演者と)同じように自分も動けばいいんですけど。
今井)手話文化と日本語文化の違いがあります。アメリカの笑いと日本の笑いって違いますよね。そんなことが起こり得る。うまーくどっちもが折り合いがつくようにするところに苦労しましたね。褒めて欲しい(笑)
加藤)(拍手しながら)本当に素晴らしかったです!
緒方)実はろう者の中で、映画を見るのが好きな方はいっぱいいるんですけど、舞台が好きな方があまりいないのは、やはり情報保障が少ないからなんですよね。
映画の場合は字幕と映像を見て内容をつかめるんですけど、舞台って字幕がないから、内容がわからない。でも、今回をきっかけに、もっとたくさんのろう者が舞台の楽しさ、面白さってところを知っていただいて、もっと広まっていけばいいなと思いました。
ろう者に伝えるための手話が当然必要となってきますので、今この舞台の映像に手話をつけましたけど、最近実際の生の劇場で、その場での手話をつけるっていうものも、今少しずつできてきてるんですよね。そのようにきちんと手話を見せる、見える場っていうのを増やしてほしいなって思っています。そうすると多分、ろう者も舞台の面白さを知って、広まっていくことにつながればなと思います。
加藤)2.5次元って漫画やアニメが原作なので、結構内容としてわかりやすいですし、セリフとかもキメ台詞とかを手話でどう表現するんだろうとか、そういうのも気になるから、いろんな作品で、また手話をやってほしいなって思いますね。