投稿日:2025/02/28
本記事は、2024年度に立ち上がった、「GOOD DIALOGUE LABORATORY(略称:GDL)」のイベントレポートです。GDLは、「よき対話を通じて、表現の可能性をひらく」を合言葉に、障害のある人もない人も、さまざまなバックグラウンドをもつ作り手や企画者が集い、表現、創作の環境におけるバリア(社会的障壁)や課題を共有し、議論し、言語化。10年先、20年先の表現の未来をつくっていくことにつなげてゆきたいという想いで立ち上がったネットワークです。
今回は、第4回のオンラインのトークイベントとして企画された「クロストークvol.4 異なる身体、日々の芸術」の様子を、南雲編集部員の文章でお届けします。
トーク概要
「異なる身体、日々の芸術」 インクルーシブな作品制作の視点を学ぶクロストーク(第4回)
日時: 2024年 9月25日(水) 19:30〜 21:00
会場: オンライン(THEATRE for ALL 公式YouTube)
登壇: 大崎晴地、佐藤拓道
参加費:無料
アクセシビリティ: 手話通訳、文字支援
障害当事者との関わりの中で、日常に潜む面白さをどう表現していくか?
大崎さんと佐藤さんは、それぞれの立場からアートや表現活動を通じて、障害のある人々と社会をつなぐ重要な取り組みを行っています。彼らの活動は、障害当事者の大変さや苦労などのネガティヴな日常ではなく、日常に潜む面白さを見つけ、引き出して表現するという新たな価値として社会に提示しています。
「異なる身体、日々の芸術」インクルーシブな作品制作の視点を学ぶクロストーク(第4回)」のレポートを南雲麻衣がお届けします。
「GDL編集部」とは?
さまざまな分野のアーティスト、ファシリテーター、制作経験者でチームを結成。学びを可視化していくコアメンバーとして、また、クロストーク及び研究会の主要メンバーとして企画を行います。
大崎晴地さん(アーティスト)の活動
大崎さんは、美術大学を卒業後、リハビリテーションの分野に身を置き、15年間にわたり重度障害のある子どもたちとの関わりを深めてきました。彼の代表作「air tunnel(エアートンネル)」は、福祉施設に設置され、子どもたちが潜ったり触れたりする中で自然とコミュニケーションを生み出す仕組みが特徴です。このトンネルは布で4層構造になっており、体が自然に離れる設計により衝突を防ぐ一方で、交通規制がない自由な空間の中で生まれるコミュニケーションに注目しています。結果として、子どもたちは思わぬ出会いを体験し、自然発生的に「友達ができた!」と喜びの声があることも。また、大崎さんのリハビリに対するアプローチは、幼少期から祖母と暮らした経験や介護への理解から生まれたものだそうです。
統合失調症や発達障害の人々の特性を理解し、それに寄り添う形で繋がり方を考える姿勢が、彼の活動の根幹にあり、このように彼の作品は、アートと介護、リハビリが有機的に結びついたものとなっているのではないかと思いました。
佐藤拓道さん(〈たんぽぽの家アートセンターHANA〉副施設長)の活動
佐藤さんは俳優・演出家としてのキャリアを活かし、福祉施設「たんぽぽの家」の運営に携わっています。この施設では、アートプログラムやパフォーマンスプログラム、ワークプログラムなど、多岐にわたる活動が行われており、障害のある人々の人生における選択肢を広げることを目指しています。アートプログラムの一例として、薬のカプセル容器を大量に集める利用者の行動を「アート」として捉える視点が紹介され、障害当事者にとっては日常である行動を価値のあるアートに転換するアプローチでした。たくさんの薬のカプセルの山を見ると、薬を取り出す瞬間が一番心が踊るのかなと想像できます。
さらに、演劇活動では、障害のある人々が体験したことや介助者とのやり取りを取り入れ、よりリアルな表現と無理のないそれぞれの身体でできることから考えていくような制作のプロセスを重要視しています。例えば、身体の動きが制限されている障害当事者の参加者が呼応するように「息を吹きかけてパスを送る」といった工夫もワークショップの中で導入しています。
演劇を通じて、日常では見過ごされがちな問題や視点を浮き彫りにし、新たな気づきを得る機会を創出するだけではなく、佐藤さんも障害当事者と向き合いながら、常に問い続けていると感じました。
共通する視点と「豊かさ」の定義
大崎さんと佐藤さんの活動には、日常の些細な出来事や面白さを発見し、それを大崎さんはアートで、佐藤さんはたんぽぽの家や演劇で活かしていく共通点があります。また、視点を変えることで、異化されたなかで、新たな価値を生み出すという彼らなりの哲学が見えてきました。佐藤さんの話の中で示された「食事の介助」の話では、介助者が良かれと思って行った行動が、実際には障害のある人にとって困難を強いれてしまったというエピソードがあります。このような「異化」のプロセスを通じて、日常に潜む新たな視点を見出しながら、表現活動を通して障害当事者の「声」を丁重に拾い、学んでいくという姿勢が印象的でした。
大崎さんの著書『障害の家と自由な身体』にある「本当の豊かさとは障害のある人たちから知る」という一節は、彼らの活動を象徴する言葉ではないかとお話を聞いて感じました。
大崎さんと佐藤さんが生み出す表現の力は、障害のある人々の個性や世界観を尊重しつつ、それを「豊かさ」と定義することで、障害当事者と社会の間でつなぐ役割を果たしていると思います。