投稿日:2025/03/31
文化庁委託事業「令和6年度障害者等による文化芸術活動推進事業」として、一般社団法人DRIFTERS INTERNATIONALが主催し約半年間にわたって実施された「障害のある人と考える舞台芸術表現と鑑賞のための講座2024」。
舞台表現や鑑賞を障害のある人とともに、あるいは、障害のある人に対して、どのようにひらいていけるのかを考える講座として、劇場や文化施設で働く人、文化財団の職員、舞台制作者、福祉施設で働く人、アーティストなど、さまざまな分野の受講者が刺激しあい、共に考え、学び合う場をつくることを目指して設計されました。
本レポートは、前編と後編に分けて講座の全体像をお届けします。より詳しい講座の内容は、報告書(PDF)よりご覧ください。
入門編と企画実践編
2年目を迎えた2024年度も、前年に引き続き、オンライン講座と上映会を通じて、障害当事者との創作現場で必要な視点や考え方などを学ぶ「入門編」と、障害当事者との文化芸術活動に取り組む全国の福祉施設の視察や専門家へのヒアリング、そして受講生自ら企画を立てるグループワークからなる「企画実践編」の2部門を開講しました。
入門編 オンライン講座と上映会
多様な講師と実践者の対話から学ぶ。4回のオンライン講座
4回のオンライン講座では、障害のある人との創作現場で大切な視点や考え方について、専門家、舞台芸術の制作・企画者、福祉の現場の実践者のレクチャーを通じて学びました。
合理的配慮の基礎的な考え方から、福祉の現場に関わってきた方、公共劇場の職員、研究者、アーティストなどそれぞれの立場での事例の紹介とクロストーク。
各回のテーマごとに「正解の問い」を設定し、受講者が自分の専門領域と関連付けて学びを深める形式を採用。「アートとケアの共通点や相違点は?」や「福祉の場に芸術が関わる時に必要なことは?」など受講者同士が意見を交換し、対話を深めました。
オンライン講座一覧
「合理的配慮ってどんなもの? 舞台芸術をひらくための考え方」
2024年4月 より民間事業者に対する劇場公共施設での合理的配慮の提供が義務化されました。合理的配慮は何のために、どのようなプロセスで提供されるものなのでしょう?劇場や文化施設、公演やイベント等で、適切に合理的配慮を提供するうえで必要な「社会的障壁(バリア)」と「障害の社会モデル」の2つの考え方について、具体的な実践例とともに学びました。
講師:飯野由里子(東京大学大学院 教育学研究科付属 バリアフリー教育開発研究センター 特任准教授)
進行:兵藤茉衣(株式会社precog)
「 芸術文化の価値とは? アートとケアの可能性を考える」
障害のある人・子ども・シニア・日本語を母語としない人たちーーー多様な人々が芸術活動に参加する取り組みが注目を集めています。そもそも、なぜ、このような取り組みが行われているのでしょうか?芸術と福祉の両分野を横断する取り組み事例とともに、芸術と福祉の親和性や両分野がまじわることで生まれる可能性について考えました。
講師:中村美亜(九州大学大学院 芸術工学研究院 教授)
ゲスト:アサダワタル(文化活動家)
進行:篠田栞(株式会社precog)
「芸術で何ができる? 福祉施設の実践」
福祉施設が取り組んでいる舞台芸術活動や劇場との協働事例から、地域の劇場・文化施設や地域とのネットワークのつくり方や、舞台芸術の可能性について考えるための講座として開催されました。
登壇:久保田翠(認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ 理事長)
樋口龍二(NPO法人まる代表理事)
山口光 (認定NPOポパイ事務局・パフォーミングアーツ担当)
進行:長津結一郎(九州大学大学院芸術工学研究院准教授)
「劇場に来てもらうには? 地域とつながる実践」
公共劇場・民間劇場・芸術団体の方々が取り組まれている、障害のある人を含む地域との関係の結び方や、劇場/公演・イベントへの障害のある人の呼び込み方について、具体的な実践について話題提供いただき、それぞれの立場からディスカッションを行っていただくなかで、劇場/舞台芸術の開き方を考えました。
登壇:恵志美奈子(世田谷パブリックシアター劇場部学芸チーフ)
吉川剛史(穂の国とよはし芸術劇場PLAT 事業制作部)
田澤瑞稀 (株式会社precog /まるっとみんなで映画祭 事務局)
進行:兵藤茉衣(株式会社precog)
講座の内容についてのレポートは報告書(PDF)からご覧いただけます。
旅する身体って何?ダンスカンパニーMi-Mi-Biの映画上映とパフォーマンス
神戸市新長田。駅から続くアーケード街の一角にある小劇場で誕生した、ダンスカンパニー『Mi-Mi-Bi(みみび)』は、聴覚、視覚、身体に特徴を持つ個性豊かな7人のメンバーで構成されています。 神戸文化ホールにて行われた、身体的特徴も個性もバラバラなMi-Mi-Biのメンバーに密着し、それぞれの“身体を巡る旅”を記録したドキュメンタリー映画「旅する身体~ダンスカンパニー Mi-Mi-Bi~」の上映会には、神戸市内外から84名が来場しました。


上映の後は、ダンスカンパニーMi-Mi-Biのパフォーマンスも。2024年の豊岡演劇祭での上映作品『島ゞノ舞ゝゝ(しまじまのまいまいまい)』を元にしたショートパフォーマンスが披露され、会場は熱気に包まれました。

上映後、実際にMi-Mi-Biによるショートパフォーマンスを鑑賞した観客の皆さんが、どのような感想を抱いたのか。自分の感じたことを言語化し、他者と語り合うことで、鑑賞体験を深堀りしていくための交流プログラムが実施されました。
劇場などの文化施設や福祉施設の生活支援員、また劇作家などのアーティスト、近隣にお住まいで関心を持ってくださった方、障害のある方など、多様な方が交流プログラムに参加。吃音症、高次脳機能障害、うつ病など、それぞれに抱えている事情や背景なども共有しながら、映画やパフォーマンスの感想をシェアしました。
文化庁委託事業「令和6年度障害者等による文化芸術活動推進事業」
主催:文化庁、一般社団法人DRIFTERS INTERNATIONAL
共催:神戸文化ホール(指定管理者:公益財団法人 神戸市民文化振興財団)
企画:一般社団法人DRIFTERS INTERNATIONAL
制作運営:株式会社precog
広報:THEATRE for ALL