投稿日:2024/12/24
宮崎駿監督の名作『未来少年コナン』の舞台化のバリアフリー配信!
宮崎駿の初監督アニメとして知られ、幅広い世代に愛されてきた『未来少年コナン』が、コンテンポラリーダンス、歌や音楽、美術、衣裳、照明など、芸術的かつ身体的な表現で舞台化され、2024年5月に東京芸術劇場プレイハウスで上演された。唯一無二の空間演出で観客を魅了し続けているインバル・ピントと多彩なクリエイターであるダビッド・マンブッフが共に演出を担当し、加藤清史郎、影山優佳、成河、門脇 麦、宮尾俊太郎、今井朋彦、椎名桔平 ほか豪華出演者で話題となった。
そして、同作品は2024年度EPADのユニバーサル事業におけるバリアフリー配信作品として選定され、いよいよ、THEATERE for ALLにて、バリアフリー字幕、音声ガイド、手話版の配信がスタート。本記事では、身体表現、美術、照明など複雑で多彩なこの舞台作品の身体・視覚的表現をいかに言葉にし、伝えるのか?音声ガイド制作のプロセスについてご紹介したい。
音声ガイド作成のプロセスとは?
バリアフリー音声ガイドとは、作品の視覚的な情報を音(聴覚)の情報に落とし込んだもの。視覚に障害のある方など、音からの情報で作品鑑賞をされる方に向けての情報保障のひとつである。
舞台『未来少年コナン』は、コンテンポラリーダンスなど抽象的な動きを含めた複雑な身体表現や多種多様な美術、衣装、そのほかの視覚的な演出が作品の大きな魅力となっている。本作品のバリアフリー配信が決まったとき、全体のバリアフリー制作ディレクションを行っているprecogチーム内で、どのようなチーム構成、プロセスで音声ガイド制作を行っていくのが良いか話し合われ、以下の三つのことを組み込むことにした。
一つ目は、舞台のプロデュースを手がけられたホリプロさんに、舞台化のプロセスやさまざまな表現、視覚的要素の成り立ちや背景についてインタビューし、バリアフリー制作チームで共有して、できる限りその意図を理解すること。二つ目は、演劇や舞台のガイド表現、事前解説に専門性と強みのあるパートナーに実制作を依頼すること。三つ目は、ダンスや身体表現の言語化に助言をいただけるアドバイザーに入っていただくこと。
今回音声ガイドをはじめ、本作品のバリアフリー制作を担当したのは舞台ナビLAMP 鯨エマさん。これまでTHEATRE for ALLで配信される作品もいくつも手掛けていただいている。メンバーの方たちご自身が長年、演劇・劇団スタッフ、俳優として舞台に関わっており、「舞台表現をいかに翻訳しさまざまな方に届けるのか」という点において、演劇のつくり手としての視点ももちながらバリアフリー制作を行っているのが特徴だ。
舞台『未来少年コナン』音声ガイド制作の流れ
①視覚的な表現がふんだんに盛り込まれた作品であることから、事前に舞台のプロデューサーであるホリプロの柳本美世さん、中邨さや香さんに視覚的な表現と音声ガイドの目指す方向性についてのインタビューを行なう。
②舞台ナビLAMP鯨さんに舞台映像をお渡し。プロデューサーインタビューの内容を伝え、事前解説と本編の音声ガイド原稿を作成していただく。
③音声ガイド原稿をホリプロの柳本 美世さん、中邨さや香さん、舞踊・演劇ライターの高橋彩子さん、precog担当者で確認。
④モニター検討会と呼ばれる場に、視覚障害当事者の鑑賞モニターさん(視力が違う障害当事者2名)にご参加いただき、音声ガイド版の視聴を行う。シーンごとに止めながら、「今のシーンのガイドは伝わる表現になっているか?」「視覚で表現されている内容が音でも十分に説明できているか?」「より良い説明はどのようにできるか?」を議論しながら、修正箇所や訂正箇所を確認する。
⑤舞台ナビLAMP鯨さんが原稿を再度調整。最終原稿で録音、動画編集を行う。
原作からインスピレーションを得て、あくまでも「舞台作品」として表現する。
「原作をただ完全再現するような、いわゆるアニメ的な表現は目指
今回、演出・振付・美術を担当したインバル・ピントは、「原作で感じた広大さ。砂漠、海など、広さ・空間を大事にしたい」と語っていたそう。作品中には美術を動かしたり、演者をサポートしたり、舞台を転換したりする黒子的な存在が登場する。これらの役割は「バックステージピープル」と呼ばれ、黒子が舞台を動かしているという様子自体を舞台上で見せることが「これは物語を見せていますよ」ということを二重構造的に伝えるような役割を示しているそう。美術装置の中にも自然と人工的に聳え立つものの対比や「戦争」のメタファーなどさまざまなものが潜んでいる。
「世界観や色味が特徴的なので、事前解説でポイントや全体像を知っておいてもらってから鑑賞してもらえるといいかもしれない」「美術が特徴的で、照明との相性がとても良い作品。照明によって奥行きが感じられるので、音声ガイドでは、物のディティールを細かく描くのではなく、光と色による空間の表現がうまく伝わると嬉しい。」「ダンサーの動きについて、場面にもよるが、
柳本さんと中邨さんからの要望を舞台ナビLAMP鯨さんに共有し、原稿作成が進んでいった。
非言語から言語へ、身体から音へ。翻訳と横断と挑戦
コミカルさと軽やかさ、広大な荒れ果てた砂漠の質感、自由を奪われた労働者たちの船中での動き、疾走感と迫力あるラストシーン。頭に各シーンの情景が浮かぶような音楽、「ミュージシャンが舞台の上で、その場で音を生み出していく」という演奏形態、さまざまな音の表現…。説明しすぎてもいけない、でも、作品を鑑賞するために入れ込みたい情報がたくさんある。
例)労働者たちの船中での動きに関する議論
ガイド原稿の初稿:「作業員たちが機械的に運搬作業をしている。
↓
「運搬作業を、音に合わせたムーブメントで表現している。ということを言えたら嬉しい。(ホリプロ柳本さん)」「労働者達が、音に合わせてリズミカルに砂袋などを運ぶ。などはどうか?(高橋さん)」「”リズミカル”だと楽しげな印象を受けるかも…(障害当事者モニターさん)」
↓
議論の末に調整された方針:ダンス、ムーブメントがあることは表現できると良い。「重労働の様子をリズミカルなダンスで表現している」といったガイドであれば、動きとしてはダンス的であることを表現しつつ、彼ら自身が楽しんでるわけでない感じも説明できるのでは?
原作の強さと舞台表現だからこそ実現できる世界。それらが見事に折り重なったこの作品をいかに言葉で説明するのか?この作品の世界観をどうすれば伝えられるのか?非言語の表現を言葉で届けること。容易ではないけれどこの面白さを伝えたい、語り合いたいというさまざまな立場のつくり手、専門家による議論が続き、検討会は夜遅くまで白熱した。
実際に事前解説と音声ガイド本編がどのようになったのか?音声ガイド、翻訳の専門家の視点、舞台制作プロデューサーの視点、身体表現の専門家の視点、視覚障害当事者の舞台ファンの視点からつくられた今回の音声ガイド。丁寧に、試行錯誤を重ねながら制作されたバリアフリー版『未来少年コナン』が、世代を超えてたくさんの方に届くことを祈って。
視覚に障害がある方はもちろん、障害のない方も、
(記事制作:THEATRE for ALL編集部/precog バリアフリー制作チーム)
基本情報
舞台『未来少年コナン』(2024年上演)バリアフリー配信
公演HP:https://horipro-stage.jp/stage/fbconan2024/
配信サイト:https://theatreforall.net/movie/conan/
<スタッフ>
原作:日本アニメーション制作「未来少年コナン」(監督:宮崎 駿 脚本:中野顕彰 胡桃 哲 吉川惣司)
演出・振付・美術:インバル・ピント
演出:ダビッド・マンブッフ
脚本:伊藤靖朗
音楽:阿部海太郎
作詞:大崎清夏
<キャスト>
コナン:加藤清史郎
ラナ:影山優佳
ジムシー:成河
モンスリー:門脇 麦
ダイス:宮尾俊太郎
ルーケほか:岡野一平
レプカ:今井朋彦
おじい・ラオ博士:椎名桔平
<ダンサー> 五十音順
川合ロン、笹本龍史、柴 一平、鈴木美奈子、皆川まゆむ、森井 淳、黎霞、Rion Watley
<ミュージシャン>
トウヤマタケオ、佐藤公哉、中村大史、萱谷亮一/服部 恵
【配信プラットフォーム】
THEATRE for ALL(株式会社precog)
【配信映像】
・オリジナル版
・日本語バリアフリー字幕
・日本語音声ガイド
・日本手話+日本語バリアフリー字幕
【配信開始】
12月24日(火)15:00~
【視聴料金】
通常料金:4,500円
特別配信期間:3,900円(12月24日(火)15:00~12月27日(金)14:59まで)*
*配信から4日(72時間)限定で特別価格でご視聴いただけます。
※購入日より7日間視聴可能です
※視聴には外部サイトVimeoのアカウント登録が必要となります。
製作:一般社団法人EPAD
バリアフリー企画制作:THEATRE for ALL(株式会社precog)
日本語バリアフリー字幕、日本手話:舞台ナビLAMP
日本語バリアフリー字幕提供:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場
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