投稿日:2024/01/19
2023年11月17日(金)からの4日間、長野県軽井沢町で『まるっとみんなで映画祭 in KARUIZAWA 2023』が開催されました。「こどもからシニアまで 障害のある人も ない人も 日本語が母語でない人も みんなで集う場をつくる 軽井沢ではじめてのユニバーサルな映画祭」とうたうこの取り組みは、企画段階から当日まで、地域の人たちも一緒になってつくりあげられたものです。
今回、レポートを担当します、渡辺瑞穂といいます。わたしは軽井沢に近い長野県東信地域で生まれ住んでいます。10年ほど障害者施設の支援員として働いてきましたが、元々美術館や演劇なども好きで、現在は芸術文化と福祉の両面でなにか関われないかとほうぼうに顔を出しています。この『まるっとみんなで映画祭』には、ボランティアスタッフとしても関わっていました。福祉の支援員の視点で、また、軽井沢の地域の一員として、盛り沢山の4日間のことを振り返ります。
ユニークな作品とイベントが集結!DJも、パフォーマンスも、さまざまな言語での感想シェアも地域出店も。
さて、まるっとみんなで映画祭のイベントスケジュールをみていくと、「信州監督特集」「キッズフレンドリー上映」「ドラァグクイーン読み聞かせ」「感想シェア会」「遠足上映会」「DJパーティー」など、気になるワードがあります。
上映作品やイベントにはそれぞれ、手話通訳、日本語字幕、英語字幕、バリアフリー字幕、日英通訳、文字支援などの情報サポートがあり、車椅子やバギーの方の優先入場や介助者1名無料、近隣駅からの送迎バスなどの取り組みもあります。また、上映中やイベント中に身体が動いたり、声を出しても大丈夫、椅子に座っても座らなくても、リラックスした姿勢で映画を楽しめるような会場のデザインにも力を入れています。
上演作品は全12作品。さまざまな性のあり方、家族のあり方、自分らしさについて考えるきっかけを与えてくれる話題作が並びます。キッズフレンドリー上映会の作品は、子どもたちが楽しめるように工夫されたユニークな短編3作品。そして、それらを鑑賞した後には、「感想シェア会」が実施される会もあるようです。さらに、当日は軽井沢町で活動する知的障害当事者の方も含めたバリスタチーム「ひまわり」によるドリップコーヒーの販売などもあり、映画祭にいろどりを添えていました。
映画祭プロデューサーの中村茜さんは開催前、「例えば、英語の作品で日本語字幕があれば家族や友人にろう者がいたり、英語話者と日本語話者が混ざっているミックスの家庭だったり使う言語は違う者同士が対話するきっかけが生まれる。そんな風に、コミュニケーション手段が違う人同士でも映画をみた後に会話が生まれ、属性の異なる人と人の関係が深まる、、といったことがあったら良いなと思います」と話していました。また「信州ゆかりの監督の作品を上演することで、開催地の歴史や文化をより味わえるように考えた」ともおっしゃっていました。
いろんな工夫が散りばめられた映画祭の様子を、早速レポートしていきたいと思います。
子どもは遊びながら、大人はじんわり。公民館の映画上映会、『さかなのこ』の鑑賞風景
映画祭1日目、『さかなのこ』上映会が中央公民館大講堂で行われました。
『さかなのこ』は、ふつうのことがちょっと苦手な主人公・ミー坊ことさかなクンの半生を描いた物語。「そのままで、きっと大丈夫。これは、迷っても転んでも前へ進む、私たちの物語。」という映画のメッセージのように、周囲の人との温かい出会いに導かれながら、自分だけの道を歩んでいくさかなクンを能年玲奈さんが熱演した話題作です。
上演終了後、沖田監督を招いてのトークイベントの時間がありました。上映中の和やかで温かい空気をそのままに、話している監督たちのすぐ足元で、子どもたちはクッションのつみきで遊んでいます。でも、不思議と、子どもたちの振る舞いはトークを遮ることもなくその場に共存していました。監督から映画の裏話など聞きながら、笑いもこぼれ、会場全体がやさしく温かい雰囲気でした。質疑応答の時間に、、真っ先に挙手して感想を述べてくださったのは、80代の男性。「いい映画だった、大勢の人に観てもらいたい」と力強く真っ直ぐに話されました。女性の方からも、「本当におもしろかった、自分はミー坊というよりはその周りにいる友人たちみたいなタイプで、共感する場面が多く、映画の力を感じた」と話され、感動している様子がとても伝わってきました。イベント終了後も、みなさんしばらく会場に残られており、それぞれに余韻をもたれたまま会話されている様子が伺えました。まっすぐに帰宅するよりは、もう少しこの空気のなかに身を置いて感じたことに浸っているようでした。映画鑑賞後になにか言葉を交わす時間があることで、その空間や立ち会った人の内面に新たな醸造を生むこともあります。
沖田監督のトークイベント時には、監督の後方に手話通訳士の方が立ち、客席の聴覚障害の方に向けて手話で内容を伝えていました。わたしは手話を見たことがあるものの、同じ空間で近い距離で手話を見る体験することははじめてでしたが、手話は手元のみではなく表情や全身を使って伝えているように感じました。その方も通訳士の方の動きを見逃さぬように目を凝らしているのが伝わります。ろう者の方がお一人だったこともあり、マンツーマンのセッションのようなダンスのような、リズムがあって流れがあって躍動的でした。
終了後、手話通訳士のお二人にお話を聞くと、「手話には表情も重要で、話されている言葉そのままでなく内容を伝えること」、「聞こえない人たちの気持ちをいかに掴んで訳すか」、「聞こえない人その方がこの場にで取り残されていないか」ということを気にかけていると話してくださいました。お二人からは、手話を知ってほしいという思いや手話を使える人を増やしたいという思いが伝わってきました。
「価値観は違って当たり前。」インターナショナルスクールISAKの学生さんたちとの感想シェア会
2日目には、LGBTQをテーマに含んだ3作品(『カランコエの花』『片袖の魚』『アバウトレイ 16歳の決断』)を観賞後、ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパンの生徒を中心とした、感想シェア会がありました。11名ほどで円になり、性のこと、文化の違いのこと、映画の魅力など、活発なディスカッションが交わされました。参加者の多くは英語と日本語を話す人で、英語のみを話す人と日本語のみ話す人がそれぞれ少数いました。
ISACでは日常的に対話がなされているそうで、高校生が、映画に対してもまたLGBTQに関しても積極的に自分の感想や意見を表明しているのが印象的でした。今回の感想シェア会を進行したNikoさんは、「価値観が違うことは日常だけど、多様性に配慮することや社会をもっとよくしたいという信念は一致しているところは多い。ルームメイトが電気消してくれない、とか日常とかの小さな仕草はちがうけど」と話してくれました。
「あのシーンがとてもキュートだった」といった映画についての感想もありましたが、特に印象的だったのは、性の話になった際、「宗教の関係で、日本に来るまでLGBTQを話題にすることはなかった」と話される方がいて、それに共感している生徒さんが多かったことでした。それは、宗教色の薄い日本で生まれ育ったわたしには経験したことがない感覚であり、改めて宗教が日常や個人に及ぼす影響の違いを感じました。
また、感想シェアは終始英語でなされ、英語から日本語への通訳の方がいてくださったのですが、議論が加熱して通訳が間に合わなくなってくると私は、他の参加者の会話が聞き取れず、「今なんの話題で盛り上がってみんなは笑っているんだろう」と感じたことが、かえって新鮮でした。取り残された感覚、「どうしたら議論に参加できるのだろう」と考えた時間そのものが、面白い経験として残っています。
「ユニークで、ありのままの自分でいることをハッピーに肯定する存在」ドラァグクイーンの読み聞かせ
2日目の午前中は、ドラァグクイーン読み聞かせという企画で東京からマダム・ボンジュール・ジャンジさんが絵本の読み聞かせに来てくださいました。「ドラァグクイーンとは、ユニークで、ありのままの自分でいることをハッピーに肯定する存在」と子どもたちに話します。3歳から8歳の子どもたちが対象のこのイベントは、定員いっぱい人が集まり、軽井沢町の子育て世帯の関心の高さが伺えました。
イベントは、出席確認からはじまり、「はじまるよの歌」をみんなで歌った後、絵本の読み聞かせと、途中で体操も行います。子どもたちの過ごし方や反応も様々で、元気よく返事をする子、声を出すことをためらう子、座布団を持って歩いている子、ノーを言える子などそれぞれが、そのままで過ごしています。
最後の絵本読み聞かせでは、内容にみんなで「OK」を言います。たくさん「OK」、みんな「OK」、みんながみんなちがうことに対して「OK」を言います。大きな声の子、小さな声の子、言わない子も様々ですが、それも「OK」です。「OK」を声にだし、聴き、確かめ合います。読み聞かせと体操の時間の間は、後方で親御さんたちが見守るなか子どもたちそれぞれが主体となり、落ち着きながらものびのびと過ごしていました。
最後、それぞれに好きな色やシールを貼って自分だけの王冠を作り、記念撮影をしました。王冠づくりでは、迷いなく自分が好きな絵を書きはじめる子や親御さんに進められておずおずとはじめる子がいました。3歳くらいの小さいお子さんも親御さんに手伝ってもらいながら自分のリズムでシールを貼って楽しんでいました。作った王冠をかぶること(一方でかぶらないこともOK)は他者を肯定し、自分のことも肯定する。「OK」という魔法の言葉は、きっと子どもたちの心に残ったのではないでしょうか。
まるっとみんなで映画祭実行委員は、もっとたくさんの方の意見を聞きながら、ユニバーサルな映画祭を育てていきたい」と考えています。次回の開催を目指して、現在、クラウドファンディングを実施中(2024年1月31日まで)。ぜひ、この取り組みを未来へと繋げていくために、ご支援ください。また、地域で映画祭をやってみたいという企業や団体の方がいらっしゃれば、ぜひご相談ください。
執筆者
渡辺瑞穂