投稿日:2021/04/13
「バリアフリー」「アクセシビリティ」とあなたが聞いて、まず思い浮かべるものはなんだろう。車椅子のためのスロープ? エレベーターに設置された点字ボタン? 日本語版ウィキペディアで「バリアフリー」と調べてみると、「対象者である障害者を含む高齢者等が、社会生活に参加する上で生活の支障となる物理的な障害や、精神的な障壁を取り除くための施策、若しくは具体的に障害を取り除いた事物および状態を指す用語」と説明されている。日本でもまちづくりやソフトウェア開発の文脈で触れられることが多くなってきた概念だ。ただ、娯楽や芸術というフィールドでは、その取り組みが十分に行われてきたとは言いがたい。
わたしたち『THEATRE for ALL(以下、TfA)』は、演劇作品を中心とした映像配信プラットフォーム。「みんなのための劇場」を掲げ、作品や、サービスそのもののバリアフリーとアクセシビリティ向上に取り組んでいる。音声ガイド、字幕、手話通訳のような映像を鑑賞する上での「段差」を取り除く作業、アーティストと考える新しいアクセシブルな作品への挑戦など……。まだ一般的でないフィールドでの挑戦の背景には、数えきれないほどのトライアンドエラーがある。
さらに、「みんな」という言葉を使う以上、取り払わなければならないのは、障害者にとってのバリアだけではない。たとえば、子育てによって難しくなった劇場へのアクセス、新型コロナウィルスによって困難になった観劇体験……。さらに、作品に対する前提知識が十分にないから、作品を楽しめないということもあるだろう。デジタルの力を借りて配信するだけでなく、学びの機会を提供することで取り除かれるバリアもあるはずだ。
作品のもつ本質にたどり着くための「壁」は、それぞれの人間によって異なる。健常者、障害者、子ども、高齢者……。そこには1つの正解はない。やるべきは、鑑賞者と作品の間におきる対話に耳をすませながら、感動をできるかぎりベストなかたちで世に送りだす方法をつねに考え続けること。TfAは、幸せなことに多くのパートナーとともに、そのプロセスをつむぎだしている。バリアフリーの「フリー」は、人とつくるものなのだ。
本特集では、実際にTfAのバリアフリー・アクセシビリティへの取り組みをひも解いていく。「つくる」と「かんがえる」をキーワードに、下記のような記事をお届けする予定だ。
「つくる」
作品を制作するプロセスをご紹介。様々な鑑賞者がアクセス可能な表現を生みだすための現場からの声をお届けする。それぞれの業務(字幕、音声ガイド、手話、アクセシビリティチェックなど)のプロフェッショナルと協業しながら、TfAがもつ創作現場に関する知見をドッキングし、丁寧で質の高いアクセシビリティと、新しい実験を実現する試みに迫る。
No.1|THEATRE for ALLは、いかに生まれたのか?(金森香×中村茜)
No.2|対談:対話を学びに変え、考えることをを止めない:作品を「ALL」化するために必要な覚悟
No.3|あらゆる当事者の声を聞き、皆で育てる:誰もが使いやすいウェブサイトをつくるために
「かんがえる」
その手法や成果を検証したり考えたりするプロセスをご紹介。鑑賞者も交えながらアクセシビリティについてディスカッションしてきた知見をお届けします。鑑賞後に異なる立場や見解をもった観客、そして作家が意見交換をするワークショップを実施したり、障害当事者に作品をみてもらってレビューしていただいたり。また単なる予告編ではなくまなびの機会になるトレイラーをつくったり。常に「考え続けられる場」をつくる挑戦を取り上げます。
No.4|意図しない「わからない」をなくすために:ともに作品をつくる、モニター検討会&感想シェア会
No.5|オンラインで、学びの場を設計する:参加者が安心感と主体感をもつための工夫
No.6|ラボ・研究活動のコミュニティづくり(予定)