2024/04/22
「アートと福祉の現場に関わっていきたいのだけれど、何からはじめたらいいんだろう?」
文化庁委託事業「令和5年度障害者等による文化芸術活動推進事業」として、一般社団法人DRIFTERS INTERNATIONALが主催し約半年間にわたって実施された、「障害のある人と考える 舞台芸術表現と鑑賞のための講座」。
劇場や美術館、博物館などの文化施設で働く人、アートに関わるつくり手、福祉施設で働く人。それぞれが現場を視察し、さまざまな分野の参加者同士で刺激しあい、共に考え、学び合うことを通じて、自分の現場にもちかえって、アクションを起こすことができるようになるまでをサポートしてきました。
今回、上映会に協力してくださった3つの劇場のご担当者の方に、ご自身の施設でのアクセシビリティの取り組みや課題、そして、今回の上映会にご協力いただいたご感想やお考えになったことをお聞きしました。
ーお話を伺った皆様ー
萩原宏紀さん
いわき芸術文化交流館アリオス 企画協働課 企画制作グループ チーフ
木澤美恵子さん
りゅーとぴあ 新潟市芸術文化会館 事業企画部 演劇企画課 課長代理
小倉由佳子さん
ロームシアター京都 プログラムディレクター
お話を伺った皆様
萩原宏紀さん
いわき芸術文化交流館アリオス 企画協働課 企画制作グループ チーフ
木澤美恵子さん
りゅーとぴあ 新潟市芸術文化会館 事業企画部 演劇企画課 課長代理
小倉由佳子さん
ロームシアター京都 プログラムディレクター
文化芸術のアクセシビリティに対して、課題に感じていること
萩原宏紀氏(以下:萩原):いわきアリオスでは2021年に「ユニバーサルデザイン検討推進委員会」というプロジェクトを立ち上げ、2022年度はパントマイム公演を開催。コミュニケーションボードやポケトークなどを準備しました。
今年度は目が見えない人や日本語を母国語としない方も楽しめるように、お経に節がついたものを僧侶が唱える「声明」の公演や、聴覚障害がある方に向けて、字幕タブレットや補聴のサービスを提供する演劇公演を実施しています。
ただ各種サービスを利用してもらう機会がまだ少なく、一方で費用はかかってしまうという現状がありますね。集客や予算確保をどうするのか、今後ユニバーサルデザインをどう常態化させていけるのかというところが課題です。
木澤美恵子氏(以下:木澤):りゅーとぴあは音楽・舞台芸術の拠点として、コンサートホール、劇場、能楽堂を備えている複合施設で、事業が多種多様という背景があります。その中で、舞台芸術のアクセシビリティに取り組みたい思いはあるのですが、まだ試行錯誤段階で、りゅーとぴあ全体では、主体となった企画を定期開催する、というところまではできていません。
年に数回劇団さんが主体となって、ツアー内全ての公演を字幕付きで行うケースがあるので、その際にご協力をしたり、今回のようにお声がけいただいた企画に参加をしたりという程度です。
現在はアクセシビリティに取り組んだ企画では、市内のろうあ協会にご案内をしてモニター参加をしていただいていますが、実際にモニターではなく観客としてであれば、何名くらい来てくださるのかというのも気になっています。
小倉由佳子氏(以下:小倉):ロームシアター京都でも事前に準備できるものに関しては、できるだけポータブル字幕機や音声ガイドをつけるように努めています。それでもなかなか全ての演目に対して行うことは難しいというのが実情です。台本が最終的に完成となるタイミングからだと、字幕の準備に間に合わないケースもあるんですよね。
あとは暗転の時のポータブル字幕機の光漏れについても内部で話し合っています。障害のある方を優先する回を企画することも検討していますが、京都での公演はなかなかロングランとはいかず2〜3公演のことも多く、どう設定するのが良いか決めかねています。
料金設定も常に持ち上がる課題ですね。現在は車椅子利用者専用の鑑賞スペースがあることに対して、他の座席を選べないため車椅子利用者の割引を適用。その他は、介助者は無料と設定していますが、他にも割引を設けるかどうかを検討中です。
講座に協力するにあたって感じたこと
萩原:上映会開催にあたってはチラシ配りや、知り合いの団体への声かけなどを行いましたが、舞台芸術や文化芸術と障害のある人を結びつける活動が市内にはほぼなく、集客に繋げるのが難しかったと感じています。
いわき市内ではおそらく劇場で映画を見ること自体が日常化していなくて、今回に限らず上映会の集客は厳しい傾向にあります。それでも、今回アフタートークがあった『こころの通訳者たち』の回は一番お客さんが入っていましたし、偶然にも映画関係者といわきの繋がりがあったことで盛り上がっていました。今後もゲストが来る場合は、例えば事前にワークショップや交流会など顔合わせをして、地域との関係性を築いておくなど、SNSやチラシなどで広報する以外にも工夫を重ねることが重要だと思います。
木澤:参加者の様子を見ると、本当に皆さん興味を持ってご覧いただいていたようで、上映会終了後は映画の感想やアクセシビリティの取り組みついて非常に活発に話されていたので、深く届いたのではないかと感じています。
ただ集客は私たちも難しさを感じたところでした。当初は演劇公演などの折込チラシでご案内をしていたのですが、後になって市内の映画館に案内を持って行ったら、「行きたいけれど開催日はすでに予定が入っている」と言われてしまったんです。演劇鑑賞者だけでなく、参加者層をもっと広く想定して、早く案内すればよかったと反省しました。
小倉:上映会のチラシは各会場の概要が全てまとめて掲載されていましたが、どうしても伝わる内容が薄まってしまうと感じました。各場所ごとにチラシを作るのは難しいとは思いつつも、できればもう少し参加地域の概要がわかりやすいと案内もしやすい気がします。
あとは、私自身公立文化施設に勤めているからこそ、アクセシビリティを学ぶことへの職場の理解やサポートも大切だと思っています。例えばですが講座参加が出張扱いになる、研修として業務時間内に含まれるなどといった仕組みになると、より学びやすくなり業界全体の変化にもつながるのではないでしょうか。
そしてロームシアター京都は企画実践編の企画発表会の会場でもあったのですが、職員も積極的に参加して、受講生の方と意見交換ができればよかったとは思います。
文化芸術のアクセシビリティで今後取り組みたいこと
萩原:今後もユニバーサルデザインに取り組む事業を継続していくにあたって、企画やアイデアは常に探しているので、今回のように提案をしていただけるならとてもありがたいです。
あとは障害のある方や外国人の方、海外にルーツのある方などにも参加していただける演劇の創作事業にも取り組んでみたいと思っています。これまで創作事業において、年齢以外で対象者を限定することはありませんでしたが、障害のある方や外国人の方が、「自分も対象になる」と思われていないように感じています。多様な人たちと一緒に演劇を創作できる事業をやりたいという思いはずっとあるので、なんとか形にしていきたいですね。
木澤:まだ具体的なビジョンは未定ではありますが、りゅーとぴあでは今後も舞台芸術のアクセシビリティに関する事業を毎年行っていきたいと思っています。予算の確保が大きな課題の中、今回のような形で協力をさせてもらったり、他団体とともに開催するといった選択肢があるというのは、アクセシビリティに取り組むハードルがだいぶ下がるので、とてもありがたいです。実践を通してアクセシビリティを学び、地域の人にも知っていただき、少しずつ取り組んでいくというのが現状できることなので、着実に継続していきたいと思います。
小倉:文化芸術のアクセシビリティに関しては、今後も優先的に取り組んでいきたいと思っています。最近気になっているのは、演劇公演では聞こえない人に対して文字支援の対応をしてきた一方で、音楽やダンス公演の場合にどうするのかということです。以前コンテンポラリーダンスのような、説明が難しいパフォーマンスを音声言語で伝えているのを見たことがあるんですけど、解釈の部分が大きくて作品と別物になるのではないかと感じました。作品形態、障害特性、観劇サポートの方法が、マッチする方法でなければあまりいい経験にならないこともあるのかと考えたりしています。
他には、障害がある人に対してサポートを提供するだけでなく、講師側に回っていただいたり、お互いに学び合えるようなプログラム制作にも今後は取り組んでいきたいです。