投稿日:2024/07/26
文化庁委託事業「令和5年度障害者等による文化芸術活動推進事業」として、一般社団法人DRIFTERS INTERNATIONALが主催し約半年間にわたって実施された、「障害のある人と考える 舞台芸術表現と鑑賞のための講座」。
劇場や美術館、博物館などの文化施設で働く人、アートに関わるつくり手、福祉施設で働く人。それぞれが現場を視察し、さまざまな分野の参加者同士で刺激しあい、共に考え、学び合うことを通じて、自分の現場にもちかえって、アクションを起こすことができるようになるまでをサポートしてきました。
入門編と企画実践編。2つのコースを並行開催
「入門編」では、障害当事者との創作現場で必要な視点や考え方などを学ぶ基礎講座を開催。幅広い参加者を募り、オンライン講座と上映会を開催しました。
「企画実践編」では、オンライン講座、全国各地の福祉施設への視察研修とグループワークによる企画立案プログラムから構成されていました。障害当事者の生活状況や、施設の方々のケアのポイント、芸術とケアの接点や効果、アートと福祉を通じた地域社会のあり方について学んだのち、実際に自分たちの活動領域で実践できる企画(ワークショップや創作活動、鑑賞プログラム等)を立案、専門家の助言をもらいながら、実施できるまで考え、発表しました。
本レポートは、「企画実践編」の取り組みの中から、受講生が4つのチームに分かれ、学びをもとに企画を行なった「企画発表」。障害とアート、共生と文化芸術の企画を各分野で実践方される方にフィードバッカーとして企画発表会にお越しいただき、アドバイスやご意見をいただきました。後編レポートでは、各チームの中で出されたアイデアとフィードバックをしてくださった皆さんからのコメントをご紹介します。
【フィードバックいただいた方々※敬称略】
佐藤拓道 (たんぽぽの家アートセンターHANA副施設長/俳優)、光島貴之 (美術家)森田かずよ(俳優、ダンサー/車椅子ユーザー)牧原依里(映画作家/アーティスト)
Aチーム 「日常↔︎劇場 エコシステム」
メンバー│ 阿部藍子/井手優介/今野はるか/髙石萌生/藤原明莉
対象│ 障害のある人、福祉施設職員、劇場職員
「実際に自分たちが関わっている人たちの中で、誰に来てほしいかを考えることから始めた」というAチーム。メンバーが以前勤めていた生活介護事業所で出会った、実在の人物をモデルに失語症、軽度の知的障害がある「エコちゃん」という人物像を設定し、企画内容を詰めた。「劇場に通う創作ワークショップ」と「劇場と施設をつなぐフェスティバル」のふたつからなる企画を体験型展示の形式で発表。福祉施設から劇場までの道のりに、象徴的な「赤い丸」をキャンパスとした、様々な“いたずら”を仕掛けることによって、施設と劇場の動線をつくるアイデアがユニーク。
【フィードバッカー講評】
● 赤丸にいたずらを施す、ということがちょっとわかりづらかった。どうして赤丸なのか?赤丸は象徴なのか、作品なのか?(佐藤/光島)
● “いたずら”という言葉よりは、遊びや仕掛けの方がいい。劇場と施設をつなぐ、人を繋ぐというのはいい仕掛け。赤丸だけではなく、様々な色、形のキャ ンバスを配置することで、多様なイメージを作れるのではないか(牧原)
● 街の中に出ていくのであれば、地域の人たちにわかりやすく、協力してもら いやすいフォーマットがあると良い。例えば、床屋さんのぐるぐるに装飾させ てもらうとか。すでに街にある物との関わり(佐藤)
Bチーム 「表現の学校~学校だけが学校じゃない~」
メンバー│大下真美/児島美穂/藤友里江/ZR
対象│中学生、劇場
「障害のある人に限らず、ほとんどの人にとって劇場は馴染みのない場所なのではないか」という劇場の課題と「小学生までは特別支援学級の友人とも学校で接するが、中学生になるとそういう機会自体が減ってしまう。」「多様な人と出会う場の少なさが、障害のある人と、ない人の分断に繋がっている」という仮説から、障害のあるアーティストと障害のないアーティストがペアで中学校を訪問するアウトリーチ授業を実施。それを経て、中学生と共に劇場で実施する企画を考え、お祭りを実施するというアイデアを発表。実際にメンバーの中に文化芸術のアウトリーチ企画経験者がいたこともあり、その経験をもとに、中学校の先生に実際に企画提案をすることを想定した寸劇で表現した。
【フィードバッカー講評】
● 中学生に何を持ち帰ってもらいたいのか。障害のあるアーティストとない アーティストをつなげた授業を提供するだけでは見えてこない。細やかな テーマ設定が必要(森田)
● 中学生は難しい年頃。障害のある人と一緒に中学校でワークショップを やったことがあるが、参加してもらうことにハードルがある(佐藤)
● 遊びやゲームの要素を入れた方がいい。また、この企画は劇場じゃなくて 学校でもできそう。劇場でやるという理由を入れた方がいい。(牧原)
Cチーム「Dream Night at the Theater:医療的ケア児とその家族に劇場に来てもらう第一歩を」
メンバー│ 吉備久美子/野口竜平/浜田誠太郎/山岡まゆみ/米満香菜
対象│ 医療的ケア児とその家族・介護者
劇場に来ることのバリアについて考えるにあたり「慣れ」の問 題にフォーカスしたというCチーム。劇場に行く側の慣れに加え、 「医療的ケア児とその保護者の方が劇場に来たときにどのよう な対応が必要なのか」「そもそも、どうやって移動して劇場に来る のか」ということを劇場側は知らず、慣れていない、という両方の 側面にフォーカス。誰でも参加できる“影絵のワークショップ”を 媒介に、特別支援学校など医療的ケア児の生活の場に出向い たワークショップ、送迎バスで劇場に行ってみる体験ツアーを経 て、最後には劇場で公演をするというプログラムを提案。発表時 は、実際に劇場を生かした影絵のパフォーマンスを実施し、場を 沸かせた。
【フィードバッカー講評】
● 視覚に障害のある人も観客に含めるならば、影絵がどのように見せられて いるかということを伝えることも体験として含められるといい。視覚に障害 のある人には、影絵を写すオブジェクトを触って認識する時間を設けるな ど。このチームは、点字の資料をつけてくれたのが素晴らしかった。(光島)
● 丁寧に企画が立てられていると思った。プロの影絵師にきてもらって、感動し た経験をもってから、それを自分たちでもやってみる、というのも良いと思う。 (牧原)
Dチーム「immersive theater『白雪姫と7人の恋びと』~森の盆踊りは恋ダンス!~」
メンバー│ 神田圭美/滝田織江/千田ひなた/港 岳彦/吉田真弓
対象│ すべての人
企画の前段階として、多くのいわゆるダイバーシティ系のイベントが「障害当事者だけが出るもの、参加するもの」になっていることや、健常者が障害当事者の生き方を感動ポルノ的に消費することへの疑問があがったというDチーム。誰にとっても敷居の低いスタイルをベースに、さまざまな障害のある人や違う言語・文化をもつ人々を含む空間で、共同作業による課題解決や議論ができることを企画の軸に定め、観客が自ら行動し、物語の一部として作品に参加する「イマーシブシアター」と、観客同士のコミュニケーションや共同作業で課題を解決していく「脱出ゲーム」の要素を組み込んだ企画を寸劇形式で発表した。
【フィードバッカー講評】
● 資料を読んだだけでは企画内容がわからなかったが、寸劇の発表を見て 納得できた。この発表自体が一つの作品だったと思う。匂いを活用してい たのが面白かった。(光島)
● 体験型の演劇がすごく新鮮だなと思った。障害のある人、ないひとと協力す るという試みは良い。障害のある人と共同するとき、思っていたより時間が かかったり予想外のことがある。それ自体を知れるのが良いと思う。(佐藤)
● 助け合いが本当にできるのか。ろう者が参加者したら、どうやってコミュニ ケーションするのか、介助者がいるのか、演技する側に当事者がいるの か。(牧原)
● 同じようなプログラムを企画したことがあり、その難しさに共感する。最終的 に何を受け取ってもらいたいのかを明確にした方がいい。当事者にどう介 入してもらうか?すごく勇気のいるプログラムだけど、やりがいのあるプログ ラムになるのでは?(森田)
フィードバッカー講評
佐藤拓道 (たんぽぽの家アートセンターHANA副施設長/俳優)
皆さんの発表はいくつも視点があり、考えさせ られる事がたくさんありました。障害のある人 とない人が出会う場、劇場に来る動機をいか に作るか、みなさんが研修で得た経験を企画 にふんだんに盛り込み、プレゼンも芝居形式 だったり、体験型だったりしていて大変興味深 く拝見しました。それぞれに課題があり、一気 に考えるとこんがらがった糸のように複雑に 見えてしまいます。でも一方で、この企画プレ ゼンをいろいろな障がいのある団体に見ても らうことも面白いと思いました。フィードバック でも話されてましたが、当事者と実践をするこ とでわかる事も多いのだと思います。絡まって 見える糸も実は簡単に解けるかもしれない。こ うした企画の始まりに当事者がいないことも まだまだ多い。何ができるかわからないところ から障がいのある人ない人が関わる場づくり を私も実践していきたいと思いました。
光島貴之(美術家)
皆さんそれぞれ工夫されていた。点字資料を 用意してくれたチームもあったのは良かった し、資料で内容を読んでもよく分からなかっ た各チームの企画が、実際に発表会に来て、コンテンツを体験すると腹落ちした部分も あった。自分の体験として、以前、劇場の中 を歩くツアーに参加し、舞台の上や舞台の裏 側、楽屋を回って歩いたことがあった。見えな い自分にとっては、空っぽの劇場を「歩く」とい うこと自体がとても面白い。様々なニーズがあ る中で、いろんな障害のある人みんなをター ゲットにするのは今の時点の企画では難しい ので、2種類くらいの障害に絞って考えていく のが現実的なのではないかと思った。
森田かずよ(俳優、ダンサー/車椅子ユーザー)
活動分野や関心事も違う人たちが集まること で、それぞれ全く違う切り口の企画が生み出 されていて、どれも興味深かったです。ただひ とつ、私自身も考えさせられたのは、劇場空 間の特殊性でした。公共である、と言いつつ も、縁遠く感じる人も多くいます。「劇場を身近 に感じてもらうため」と「劇場だから出来るこ と」が交差する部分がまだまだありそうです。 会でも意見としてあがりましたが、企画自体を 「障害当事者」と共に考え、創りあげることは 最低限必要なことです。また、この「当事者」は 非常に幅が広く、そこが難しい点でもあり、面 白い点でもあります。より「生」な声を聞き、同じ 目線で世界を見ながら、これからもワクワクす る場を共に創っていきましょう。
牧原依里(映画作家/アーティスト)
グループごとの企画発表を拝見し、企画その ものに対して関心を抱いて真伨に取り組む 「自分事化にする」フェーズに皆さんいるのが 分かり、グループそれぞれのプロセスがあった のだろうなと伝わってきました。その次のフェー ズは「その企画が〈当事者(参加者)のニーズ〉 〈劇場としてのニーズ〉をそれぞれ満たしてい るか?」の検討だと感じました。障害者を対象と する企画を行うにあたって必ず必要になる作業 だと私は思っています。そして「当事者(参加者) のニーズ」はアンケートからでは収集に限界が あり、そのコミュニティに飛び込まないと見えて こなかったりします。私がいるろうコミュニティ でも難聴、ろう、CODAとそれぞれ求めること が異なってくること、「障害」は一括りにできる ものではないからです。今後その客観力を身 につけていき、フィードバックを繰り返していく ことで、それぞれにとって必要なニーズが詰め 込まれた企画が出来上がっていくのだろうと 思います。今回の経験を糧に、ぜひより質の良 い企画を作っていってください。改めてお疲 れ様でした。
まとめ
企画実践編には、文化施設職員として、よりインクルーシブな表現の場づくりや企画を深めていきたいという方、福祉の現場でこれから文化芸術の取り組みをしたい方、福祉とアートの実践を学ぶ学生の方など、さまざまな方が参加してくださいました。
企画発表会に向けたグループワークでは、それぞれ課題に取り組んでいただきましたが、企画の内容だけではなく、その過程で、バックグラウンドの違う参加者同士、それぞれの立場から視点を深め、意見交換していったことでみえた気づき、学びも大きかったように感じます。運営側も含めて講座が終わった後も今回の対話から生まれた学びを活かし、インクルーシブな舞台芸術の場づくりを担う人材が増えていくことを願います。
受講生の視点から本講座での体験を言語化した対談レポートも公開しております。
合わせてご覧ください。