投稿日:2023/04/22
GonzoのはちゃめちゃパフォーマンスをAIが言語化?! Gonzoがさせじと逃げる?!
身体表現を観客に届ける過程で生じるさまざまな障壁を、それぞれの作品がそれぞれの手法で乗り越え、アクセシビリティをあらゆる人に向けて開いていく--。作品に込める思いを、障害のある人、使う言語が違う人など多様な身体とわかち合い、さらなる表現へとつなげていく挑戦の数々を結集させたフェスティバル「TRANSLATION for ALL」が2023年5月〜6月に東京のリアル会場とオンラインで開催される。アーティストたちは、障害のある方々をはじめ、さまざまな立場の方とともにワークショップや公開稽古を行うなど、クリエイションを進行中。
「TRANSLATION for ALL」を企画・運営するTHEATRE for ALLでは、リアルイベント以外にも、オンラインで楽しめるコンテンツを続々と発信する予定だ。
互いの身体やアイテムを即興でぶつけ合う、さながら格闘技やスポーツ観戦のような高揚感を与えるパフォーマンスで魅せるcontact Gonzo(以下Gonzo)。AIや自動制御装置などを使ったユーモラスなアート作品で、特にガジェット好きをワクワクさせてくれるやんツー。ステージ・パフォーマンスと現代アートの垣根を超えて、独自の活動を行っているという共通点を持つ彼らは、2019年に『untitled session』という作品で、コラボレーションを実現している。予測不能な人間の動きをAIに解説させるという、斬新かつ遊び心にあふれた作品を発展させたのが新作『jactynogg zontaanaco ジャkuティー乃愚・存taアkoコ』だ。本番に先駆け、3月25日にLAB企画として、大阪の“新しいアートのまち”北加賀屋の「コーポ北加賀屋」で実施された本作のワークインプログレスの模様をレポート!
『untitled session』で行われたのは、Gonzoのパフォーマンスを、やんツーが製作した自動走行セグウェイに搭載したカメラがとらえ、AIが画像を言語化する「キャプショニング」機能によって、実況解説をするという試みだった。この「身体の動きを言語に翻訳する」というコンセプトが、特に視覚障害者が身体パフォーマンスを“鑑賞”する際の大きな手がかりになるのではないか、ということで、ヴァージョンアップ版として『jactynogg zontaanaco ジャkuティー乃愚・存taアkoコ』を発表することになった。
現実とAIの解説に生まれるズレに生まれるおかしみ
会場に入ると、土俵ぐらいの大きさのパフォーマンスエリアでは、すでにセグウェイが自由に走り回り、準備中の関係者や観客の様子をとらえ、実況を始めている。やんツーいわく、今回使用したAIの学習データセット(コンピューターで処理されるデータのまとまり)は初演のものとは別のもので、生成される言語が指し示す様子が変わったという。そして、生成された英語の原文を、今話題を呼んでいる人工知能チャットボット「ChatGTP」で日本語に翻訳させつつ、文章をより具体化させるなどしている。たとえば、『untitled…』の解説が「スケートボードをしています」「大勢の人が囲んでいます」など、状況を一言で表すようなものが多かったのに対して、今回は言葉がはるかにポエティックになって、そのぶん解説と現実とのギャップが大きくなったように感じられた。
まず、Gonzoの3人は建築模型用の細長い発泡スチロールを使って、羽根付きのように小さな発泡スチロールを打ち合ったり、お互いの身体に押し付けあったりし始めた。なぜスタイロフォームを?と思ったら、建築家集団「dot architects」も出入りしているコーポ北加賀屋の片隅に、廃材として積んであったものをたまたま使った、とのことだ。資材をあえて持ち込まず、その場にあるものを即興でパフォーマンスに取り入れるのがGonzoらしい。乱暴に扱われたスタイロフォームがどんどん壊れ、次第に小さくなってくると、今度はお互いを平手打ちしたり、上に乗っかったりするという、Gonzoらしいラフな動きが炸裂しはじめる。
一方のセグウェイは、その激しいパフォーマンスのただ中に果敢に突っ込んだり、逆に客席の方に逃げながら、絶え間なく実況を続ける。その内容は「スーツ姿の男性の心には悲しみがただよっているようです」「女性はヴァイオリンを演奏し孤独です。そう見えませんか?」など、的外れかつ意味不明なものがほとんどだ。しかし最近流行りのAIお絵かきアプリもそうだが「思っていたのと違う」という認識のズレが出てくれば出てくるほど、そのおかしみは増す。と同時に、私も含めた現代人はAIに頼る作業が日増しに増えているけれど、果たしてそれを100パーセント鵜呑みにしても良いのか?と、現実を疑う視点も出てきた。
Gonzoのメンバーは、押し車まで投入してぶつかり合っていくなど、その動きはますますヒートアップ。ついにはセグウェイをつかんで、相手に押し付けるような行為におよび、セグウェイからは「ピッピッピッピッピッピ」という警告音が発せられる。なんだか昔プロレス中継で見た、悪役レスラーが実況席に乱入して、アナウンサーが慌てふためく……という光景を思い出す。この流れが落ち着くと、中心メンバーの塚原悠也が「終わりです」と告げ、約1時間程度の試演は終了した。
認識のズレが視覚障害者モニターを混乱させるも……
終演後には、創作をより深めるための意見を伺う目的で招かれた、視覚障害者モニター・山川秀樹さんへのヒアリングが行われた。山川さんは、視覚障害者と健常者とアートをつなぐ活動を行っており、普段からアートに触れる機会も多いそう。今回のヒアリングには、これ以上ないほど適った相手だ。Gonzoのパフォーマンスは初体験だという山川さんは「始まってしばらくしてから『これは無理』と思った。修行とか、地獄みたいな時間だった」と、率直すぎるほど率直な感想を述べた。
Gonzoのパフォーマンス自体は「発泡スチロールを持って何かをしたり、人と人がぶつかり合っているというのは、音から推測できた。パフォーマンスは熱量の高い、迫力のあるものだったんだろうと思う」と、驚くほど正確に言い当てる。その上で「ロボットの言葉に脈絡がなく、実際の状況がわからなくて、鑑賞サポートになっていなかった。見える人にとってはズレを楽しむツールなんだろうけど、僕はしんどくてしょうがなかった」と、自分にとってはアートとして楽しめなかった理由を語った。
ただ山川さんがこう感じたのは「もっと正確にアクションを解説してくれると思った」という、これもある種の「認識のズレ」が原因の一つにあったよう。塚原が「もともとGonzoのパフォーマンスは、意味付けされること、言葉で説明できることからどれだけ逃げ切れるか?というもの。人間でも言語化できないものに、AIが入るとより混乱する。それを面白がる狙いがありました」と、コンセプトを説明した上で「アーティストは誤用が仕事というか、開発者が意図する使い方とは違う興味を持ってしまう。これをあたかも『AIが完全実況する』と真実のように出したら、確かに誤解が生じるでしょうね」と、あらかじめ鑑賞者に対して、前提や狙いをどこまで伝えるべきかの難しさを、課題として上げた。
一方、やんツーは「僕自身は正確な説明を目指しているけど、目が見える人でも説明しづらいもの(パフォーマンス)が相手なので、どうしても難しい。本番までにはできる限り改善していくつもりです」と、なんらかの方法でアップデートを試みることを宣言。また山川さんから、視覚障害のある人でも楽しめる作品にするために「4台ぐらいで同時に実況すれば、それぞれの見えているものがこんなに違う!という面白さが出てくるのでは」と提案されると、やんツーも「その中に、人間の実況がひとりいてもいいかもしれない。『(AIは)あんなことを言うんだ』というふうに、よりAIを相対化しながら鑑賞できると思います」と、新たな可能性を見出したようだった。
AIのキャプチャー機能をさらに逆手にとって
ヒアリング終了後には、Gonzoの3人とやんツーに話をうかがうことができた。2019年に上演した『untitled session』からAIをチェンジしたために、実況の質が大きく変わったことについて、三ヶ尻敬悟は「やっぱり前の方が、単語単語でしゃべるのがかわいい感じだったし、言葉が曖昧だったぶん(パフォーマーが)乗れる余白があった気がします。前は『それはちゃうやろ!』ってツッコミができるぐらいの余裕があったけど、今回は『私にはこう見えます』と言い切られるので『(僕には)そうは見えない』と感じてしまった。それをどうとらえたらいいかという、バランスが難しかったです」と感想を述べた。
また塚原は「人間のさじ加減というか、つまみをどこまで回すか?というのは、確かに考えます。今日も『悲しそうです』と言われたから、悲しげな方面に(自分の)身体を持っていったりしましたし(笑)。でも最終的に人間がつまみを回してしまったら、やんツーさんを呼んだのがもったいないですよね。やんツーさんの機械にポンと投げたら、勝手に作品をつくってくれるねん!みたいな感じで、ハッキングとストリートカルチャーの楽しい部分が、うまいこと形になればいいなと思っています」と、そのバランスの指針のようなことを述べた。
ヒアリングの感想として、やんツーは「『地獄のよう』という返答は全然予期してなくて、当事者の生の声を聞かないとわからないことでした。でも音だけでいろいろなことを理解してくれているのはビックリしたし、視覚障害者でもズレの部分を楽しめる可能性があると言ってもらえて、希望があるような気もしました」と感触を語り、さらに5月の本番に向けて「この前の美術展(森美術館「六本木クロッシング2022展」)に使った自立型の運搬ロボットを、この作品にも導入しようかと。それによってさらに彼らの動きは複雑になるだろうし、AIの方もどんどんチューニングしていこうと思います」と、Gonzoを取り巻くマシンをより充実させることを予告した。
さらにGonzo側からのアップデート案として、松見拓也から「練習では黒い服を着てたんですけど、今日の本番でタイダイ柄のTシャツを着たら、何度も『ピンクの服を着た女性』と認識されて(笑)。このAIは、どうやって女性と男性を判別してるんだろう?と考えたし、美術や衣裳で遊べる余地がもっとあるかもしれないと思いました。あるいは、人の形とは思えないような状況をつくるとか」というアイデアが出された。それを聞いた塚原から「全員が(ミュージカルの)『CATS』みたいなメイクして、四足で動いてみたらどう言われるかな?」とユニークなコメントが出て、全員が思わず笑い出す場面もあった。
昨年あたりから「ChatGPT」や、各種「お絵描きAI」の出現で、いよいよ人間とAIの認識とコミュニケーションの差が縮まりつつあることを実感する人も多いだろう。そんな風潮の中で上演される『jactynogg……』は、いろいろな意味でAIの限界を感じつつ、アートへの転用の可能性を広げる作品になるのではないだろうか。この貴重なワークインプログレスを経て、本番ではどのような“翻訳(translation)”が行われるのか、期待して待ちたい。
なお、このワークインプログレスの経過を経て、パフォーマンスの様子を人間が実況中継する要素を作品の一部として取り込む方向でクリエーションが進められる予定だ。
また会場までの同行支援サービスもある。ぜひご利用いただき、本作を楽しんでほしい。
取材・文・撮影:吉永美和子
公演情報
contact Gonzo×やんツー新作『jactynogg zontaanaco ジャkuティー乃愚・存taアkoコ』
■日程:2023年5月19日(金)〜21日(日)
5月19日(金)19:00
5月20日(土)15:00 ※アフタートークあり
5月21日(日)15:00
上演時間:約60分予定
■会場:ANOMALY(東京都品川区東品川1-33-10)
■アクセシビリティ対応:
・日本語字幕(AIによる発言のみ)
・AIと人間がパフォーマンスの様子を音声言語にします
演出・構成:contact Gonzo、やんツー
出演:contact Gonzo(塚原悠也、三ヶ尻敬悟、松見拓也、NAZE)
テクニカルデザイン:やんツー
システムエンジニアリング:稲福孝信(HAUS)
■チケット料金:
一般(特典付)|¥6,000(前売りのみ・数量限定販売)
一般|前売 ¥3,000/当日 ¥3,500
U25|前売 ¥2,500/当日 ¥3,000
※特典:本パフォーマンス中に生まれた作品の一部を当日お渡しします
※当日券の販売有無は、予約状況によって異なります
※障害手帳をお持ちの方1名につき、介助者1名のみ無料
※20日(土)は同行援護サービス(otomo)があります。詳細はWEBサイトでご確認ください
■問合せ
THEATRE for ALL 事務局
電話:03-6825-1223(受付時間 平日10:00〜18:00)
メールアドレス:tfa@precog-jp.net
FAX:03-6421-2744
主催:株式会社precog
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、芸術文化振興基金
協力:ANOMALY、一般財団法人おおさか創造千島財団