2023/06/09
THEATRE for ALL のプロジェクト「劇場をつくるラボ」は、福祉施設に鑑賞体験を届けることを目的にスタートした活動ですが、2022年は音楽家の蓮沼翔太さんと映像作家の水尻自子さんが千葉県印西市の福祉施設を訪問して施設の利用者さんとワークショップを重ねながらアニメーション『PAPER?/かみ?』を完成させました。全国の福祉施設で上映を重ねていますが、今回は、「まるっとみんなで調査団」の企画で、長野県「ほっちのロッヂ」に「劇場をつくるラボ」がやってきました!
今回は、上映時間10分ほどの本作を見ながら、身の周りにある品々を使って音を出し、みんなで一緒にセッション(合奏)しよう!というワークショップが軽井沢で行われました。診療所と大きな台所があるケアの文化拠点「ほっちのロッヂ」で実現したワークショップには、ほっちのロッヂを利用する親子が13人(子ども8人、大人5人)が参加してくれました。
「ほっちのロッヂ」のアトリエを飛び出して街中でアートを体験
ほっちのロッヂは2019年9月から訪問看護ステーションとして事業をスタートし、2020年4月から在宅医療を担う診療所と病児保育、医療的ケア児の居場所としての児童発達支援・放課後等デイサービス、高齢者の方も介護を受けながら過ごすことのできる通所介護などのケア事業を展開している。また数多ある文化活動のなかで、定期的にほっちのロッヂのアトリエを飛び出して街中でアートを体験する「お出かけDAY!」も実施しており、『お出かけDAY!梅原徹さんとあそぶ 音とセッションの世界!』も、そのくくりで開催された。2020年4月からほっちのロッヂの文化企画担当をしている唐川恵美子さんがコーディネートを担当しました。
フロアにはさまざまな手触りの紙、ペットボトル、バケツ、プラスチックのたらい
『PAPER?/かみ?』を見ながらのワークショップは、初年度の「劇場をつくるラボ」から参画し、印西市の福祉施設でのワークショップにもプロジェクトメンバーで参加している梅原徹さん、米津いつかさんもやってきてサポートしてくれました。
梅原さんは美術家/音楽家であり、都市・環境のリサーチやフィールドワークを通して、音と空間のコンポジションを行っているアーティストですが「子どもたちはマイクで音を拡張させる体験をしたことがないだろうから、これを大事にしたい」という思いをもとに、映像制作の段階で蓮沼執太さんが大切にしていた「楽器を使って音楽を奏でる、というアプローチではなく、原始的に音を出す、聞く、感じる、という試み」という部分も重視しながら、試行錯誤しながら計画してくれました。
また『PAPER?/かみ?』の映像を使ったWSは、1月7日は奈良県のたんぽぽの家でも開催されましたが、その際にファシリテーターを務めた同施設の副施設長・佐藤拓道さんのアイデアで、利用者さんに無音で『PAPER?/かみ?』を見てもらって気になったシーンの音を日用品で創造してもらうという試みが取り入れられました。このことが利用者さんのクリエイティビティを引き出していると感じた企画チームは、このアイデアを盛り込みながら、「ほっちのロッヂ」の現場に向けた計画を立てていきました。実際、軽井沢は障害のある子もない子も含めて、奔放な5歳以下の子どもたちが対象だったことで、その雰囲気はまるで違うものになりました。
フロアにはさまざまな手触りの紙、ペットボトル、バケツ、プラスチックのたらい、お煎餅、割り箸、楽器類などなどが置かれている。参加者が集まってきたところで、まずは梅原さんが自己紹介をし、これから行うことを説明。最初は素材に触れて感触を確かめながら、自分の好きな音が出せそうなものを選んでいきました。大人にはどうにも予想もつかない組み合わせ、予想もつかない使い方が次々と試されていきます。選んだ素材で鳴らした音をマイクを通して拡張していくと、子どもたちの好奇心と熱量が高まっていったようでした。ますます自由度は高まり、自分の全身まで駆使して音を出そうとする子も登場。あちこちで大きな音を出す実験が続く。子どもたちに対してお母様やほっちのロッヂのスタッフたちが関心を持てそうな素材を見せたり、手に触れてみるように近づけたりと、いろんな動きがうまれました。
途中、スタッフが巨大なトレーシングペーパーを用意すると、みんなが群がって引っ張ったりパンチしたり破いたり身体に巻きつけたり。家でやったら必ず怒られそうなことも、ここでは全然構わない。笑顔が炸裂するお子さんたちを大人たちも興味深そうに見つめていました。
お煎餅をかじる音もセッションの一つに
梅原さんの「ちゅ〜も〜く」という声が響きます。梅原さんのほんわかした声に反して、子どもたちが出す音は激しい。今度は、無音で流した『PAPER?/かみ?』の中で気に入ったシーンに、音をつけてみようと改めて声をかけました。「コーヒーの入ったマグカップの下に敷かれた紙をスッと抜く」「くちびるがくわえたストローの先からしゃぼん玉が定期的に顔を出す」「猫の手らしきが伸びてきて水の入ったグラスを倒す」などなど、子どもたちが選んだシーンにそれぞれが音をつけてみます。大人には奇想天外に感じられても、子どもたちの想像力は計り知れない。「あ、こんな音がするのかもしれない」と納得させられるようなアイデアが次々と試され、後半はリズムマシンの刻む音に合わせて好きな音を出していきます。好き勝手に音を出していた子どもたちが、誰かの音に自分の音を合わせるなど、小さなセッションがあちこちで起こりました。みんなほかの人の音を気にしていたよう。バラバラになったお煎餅をみんなに配る子。お煎餅をかじる音もセッションの一つになっていました。みんなの小さな歯は大丈夫かな?
映像を見ながら音を出す子どもたち
最後は音のついた『PAPER?/かみ?』の全編を見ながら、音をつけていきました。小さなお子さんにはちょっと難しかったかもしれません。大人にはのんびりした映像も、音をつけていく子どもたちには忙しそう。勢い余って、マイクに息を吹きかけたり、叫んだりする子も。映像の後半はシーンの絵に合わせた音を出すというよりは、映像のリズムに合わせてみんなの出す音が軽快なセッションになっていた。終了と同時に思わず大人たちの拍手が起こりました。
1時間のワークショップだったが、めちゃくちゃ濃厚に駆け抜けた印象が残りました。梅原さんは「お家でも怒られない程度に試してみてね」と言っていましたが、それは無理、やっぱり怒られちゃうのではないでしょうか。マイクに向かっての大声合戦がしばらく続いてワークショップの幕は閉じました。
『PAPER?/かみ?』を使ったワークショップは、この日の軽井沢での経験を吸収して、もっともっと自由に膨らんでいきそうです。
文責:いまいこういち
「まるっとみんなで調査団とは?」
キックオフミーティングレポート:
https://theatreforall.net/feature/feature-6298/
企画報告会レポート:
https://theatreforall.net/feature/feature-7376/
「劇場をつくるラボとは?」
https://theatreforall.net/geki-tsuku-lab/