Q 私たちが想う「身体像」の現在形とこれからとは?

「身体」と「物語」が出会う場としての劇場

 私は、身体と物語が出会う場としての「劇場」に関心を寄せている者ですが、これまで、プロデューサーやイベントプランナーという仕事を通じて、ファッション、メディアアート、パフォーマンスイベント、といった領域を横断しつつ、「身体」から「劇場」を立ち上げることについて、実践しながらこねこね考え続けております。

 例えばファッションは、フットワーク軽く感覚的に、ちょっと先の人間像を提示できます。メディアアートは、肉体的な存在だけでなく、機能拡張した時の身体、あるいは、肉体そのものがここになかったとしても成立するかもしれない人間の存在と、そんな身体同士の対話の可能性について考えさせてくれます。

 

「身体像」はアップデートされ続けている

 身体の領域・能力・限界みたいなものは、身体たち(私たち)を取り巻く社会状況や、メディア・科学技術、あるいは交通・情報インフラや、医療技術の進歩などによっても大きく変遷していくものです。この、社会や技術の変化に伴って変幻していく「身体像」というのは、時代の変遷で抗い難く制約を受けたり更新されたりするものですが、一方で、人の希望や欲望や願い、時には偏見や夢を見る力の限界、を反映するものでもあると気づきました。

障害のある身体

 ある時、義足ユーザーの方々とファッションショーを行ったことがきっかけで、私はそれまで自分が捉えていた身体感の不完全さを思い知りました。世界の一部しか見えてなかったと気づき、そこから私は、これまで時代や流行が生み出し続けてきた身体像と、現実の身体の乖離、そして、障害のある身体の周りにある生活やデザイン(ずっとあったけれど私が知らなかったものや、これから生まれてくる新しいもの)、それから、まだ可視化・言語化されてない、障害のある身体から発せらる美的感覚や矜持みたいなものに関心を持つようになりました。これらは、見る/見られるの関係性によって、搾取されることもあれば、先入観や思い込みによって、その尊厳が損なわれることもある、ということにも。

これからの身体像

 だから、障害当事者と一緒に考えたい。現在そしてちょっと先の身体像とは?そこに障害のある身体はもっと当たり前に、もっと魅力を存分に発揮してに存在しているはずだと考えています。そしてこれを生み出すのは、他でもない、今を生きている我々だし、偏見を取り除き、多様な身体に向き合う中で、いくつもの仮説や妄想が未来の身体を紡いでいけるよう、この問いに向き合い続けたいと思っています。

True Colors FASHION 制作風景より(主催:日本財団・日本財団DIVERSITY IN THE ARTS・一般社団法人DRIFTERS INTERNATIONAL) 撮影:もろんのん

執筆者プロフィール

  • 金森香
    出版社リトルモアを経て、ファッションブランド「シアタープロダクツ」を2001年に創業〜運営する傍ら、2010年NPO法人DRIFTERS INTERNATIONALを設立して人材育成事業などを行う。2020年頃より「True Colors Festival 超ダイバーシティ芸術祭」(日本財団)や「THEATRE for ALL」(株式会社precog)をはじめとした、障害とアートに関する企画のディレクションに参画するようになる。現在はフリーランスで子育てしながらI&D事業支援やイベント企画をマイペースにやっています。