部屋に流れる時間の旅
チェルフィッチュ
ABOUT
「永遠の希望をもった死者への羨望。」
死者と生者の関係を描いた『地面と床』を経て、新たな「音/言葉/身体/空間」に迫る
2011年の東日本大震災をきっかけに岡田利規の演劇観は「フィクション」の有効性を探求することへと舵を切り、社会の中の緊張感や断絶を寓話的に描いた「現在地」(2012年)と「地面と床」(2013年)を発表しました。『部屋に流れる時間の旅』では、ふたたび震災後の社会背景を主題としながらも、社会での断絶が生じる以前の個々人の心の葛藤や恣意的な感情をきわめて細密に見つめ、拡張し、これまでにない新たな表象を舞台上に立ち上げます。
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作品の基本情報
- 上映時間
- 75分
- 言語
- 日本語
- 料金
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〈レンタル〉 1500円(税込) 視聴期間: 168時間 / 7日間 この作品はレンタル(PPV)でご視聴いただけます。*Vimeoの仕様上、お客様の閲覧環境によって金額が米ドル表示になる可能性もございます。
- ジャンル
- 演劇
本作品のアクセシビリティ
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音声ガイド
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手話
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バリアフリー字幕
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字幕
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多言語対応
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吹き替え
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作家オリジナルのバリアフリー
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ノンバーバル
POINT!
①物語とその背景
2011 年の震災が起こった直後、岡田は、これだけの未曾有の出来事が起こったのだから社会はこれから良い方向へ変化していくはずだという希望を、昂揚感とともに抱いていました。物語の登場人物は、そのような希望を抱いたまま死んだ女の幽霊と、かつてその女の夫であった男、そして男の現在の恋人。もはや希望を持つことなど不可能と思えるこの社会に生き続ける男は、死んだ女の強く純粋な希望をもった問いかけに戸惑い、心をかき乱されます。加えて舞台上には、小さなものたち(音/動き/心の揺れ)やさまざまな境界の存在に言及し注目させる、物語には直接登場しない役割の人物も置かれます。
②テキストにおける試み
これまでの寓話的な物語世界の描写を脱し、登場人物が抱える些末な葛藤や小さな心の揺れが、 きわめて個人的で恣意的なものとして密に描かれます。この試みは、岡田の劇作家としての大きな挑戦でもありました。
③音と身体における試み
音と舞台美術にはサウンド・彫刻アーティストの久門剛史氏を迎え、音と言葉と動きの掛け合わせによる新たな表象への挑戦が試されるなど、これまでとは異なるアプローチをもって創作に挑みます。また、この取り組みにおいては、「劇場」というシステムがもつ内と外を分ける遮断性への問いを扱うことも目論まれます。身体の扱いにおいては、注意しなければ見えないような小さな動きやそれが誇張されていくプロセス自体が提示されることになるでしょう。音や身体の動きをどこまでも繊細に扱い拡張する手つきは、細密な物語上の心理描写とリンクして、さらに観客の想像力の飛躍を促します。
アーティスト・制作者からのメッセージ
震災と原発事故が起こった直後の数日間に、わたしに押しよせてきた感情のなかには、悲しみ・不安・恐怖だけでなく、希望も混じっていた。これだけの未曾有の出来事が起こってしまったことは、そうでなければ踏み出すことの難しい変化を実現させるためのとば口に、わたしたちの社会を立たせてくれたということになりはしないだろうか。そう思ったのだ。あのときは。
未来への希望を抱えた状態で死を迎えた幽霊と、生者との関係を描こうと思った。死者の生はすでに円環を閉じ、安定している。生き続けているわたしたちはそれを羨望する。わたしたちは苦しめられ、そこから逃げたくなって、忘却をこころがける。
アーティストプロフィール
チェルフィッチュ
岡田利規が全作品の脚本と演出を務める演劇カンパニーとして1997年に設立。独特な言葉と身体の関係性を用いた手法が評価され、現代を代表する演劇カンパニーとして国内外で高い注目を集める。その日常的所作を誇張しているような/していないようなだらだらとしてノイジーな身体性は時にダンス的とも評価された。07年ヨーロッパ・パフォーミングアーツ界の最重要フェスティバルと称されるクンステン・フェスティバル・デザール2007(ブリュッセル/ベルギー)にて『三月の5日間』が初めての国外進出を果たして以降、アジア、欧州、北米にわたる90都市以上で上演。11年には『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』が、モントリオール(カナダ)の演劇批評家協会の批評家賞を受賞。 近年は、世界有数のフェスティバル・劇場との国際共同制作により、『現在地』(12年)、『地面と床』(13年)、『スーパープレミアムソフトWバニラリッチ』(14年)、『部屋に流れる時間の旅』(16年)『三月の5日間』リクリエーション(17年)を発表。つねに言葉と身体の関係性を軸に方法論を更新し続け、既存の演劇手法に捉われない表現を探求しており、18年には映像によって演劇的空間を立ち上げる展示/上演『渚・瞼・カーテン チェルフィッチュの〈映像演劇〉』(熊本市現代美術館)を制作・発表。19年から20年にかけては美術家・金氏徹平をセノグラフィーに迎え、『消しゴム山』(KYOTO EXPERIMENT 2019)と『消しゴム森』(金沢21世紀美術館)を制作。引き続き「映像演劇」の手法を用い、ひとつのコンセプトをふたつの異なる空間で発表している。
クレジット
作・演出:岡田利規
音・舞台美術:久門剛史
出演:青柳いづみ、安藤真理、吉田 庸
舞台監督:鈴木康郎
音響:牛川紀政
照明:大平智己(ASG)
衣裳:藤谷香子(FAIFAI)
英語翻訳:アヤ・オガワ
演出助手:柳雄斗
宣伝写真:川村麻純
制作:黄木多美子、ケティング菜々、兵藤茉衣(プリコグ)
製作:チェルフィッチュ
企画制作:プリコグ
国際共同製作:KYOTO EXPERIMENT/ロームシアター京都、Kunstenfestivaldesarts、Festival d’Automne à Paris、Künstlerhaus Mousonturm Frankfurt、FFT Düsseldorf、La Bâtie – Festival de Genève、HAU Hebbel am Ufer、SPRING Performing Arts Festival Utrecht
協力:にしすがも創造舎、水天宮ピット
京都芸術センター制作支援事業