投稿日:2024/04/22
「アートと福祉の現場に関わっていきたいのだけれど、何からはじめたらいいんだろう?」
文化庁委託事業「令和5年度障害者等による文化芸術活動推進事業」として、一般社団法人DRIFTERS INTERNATIONALが主催し約半年間にわたって実施された、「障害のある人と考える 舞台芸術表現と鑑賞のための講座」。
劇場や美術館、博物館などの文化施設で働く人、アートに関わるつくり手、福祉施設で働く人。それぞれが現場を視察し、さまざまな分野の参加者同士で刺激しあい、共に考え、学び合うことを通じて、自分の現場にもちかえって、アクションを起こすことができるようになるまでをサポートしてきました。
半年間の受講を経て、参加者はそれぞれ、どのような感想をもち、どのようなことを考えているか。それぞれのチームを代表して、受講生4名にお話を聞きました。
ーお話を伺った皆様ー
今野はるかさん
(公財)可児市文化芸術振興財団事業制作課職員
前職の(公財)堺市文化振興財団にて、学校やこども食堂等でのWS企画制作を担当し、「社会課題解決のための文化芸術」の魅力にはまる。2023年春より現職。
浜田誠太郎さん
俳優、演劇研究
1996年生。主に俳優。研究の関心は20世紀ロシアの演劇論の思想史的背景とその実践の記述。早稲田小劇場どらま館の制作部にてワークショップなどの企画・運営。
児島美穂さん
一般財団法人地域創造 職員/モモンガ・コンプレックス制作
1990年東京都出身。都内の公共ホールに勤務後、2019年〜現職。すべてにおいてダンスにひたりながら、文化芸術はライフラインのひとつと信じて活動中。
千⽥ひなたさん
岩手県生まれ。日本大学芸術学部演劇学科に在学中。大学でアートマネジメントを学びながら、舞台芸術の企画・運営に携わる。演劇をする団体「コーポ 指」の制作も担当している。
- 企画実践編のグループワークはいかがでしたか?
浜田誠太郎さん(以下:浜田):うちのチームは、バックグラウンドが違う5名が集まっているんですが、抽象的な議論を深めていくところから話が進んでいきました。どういう風にプレゼンをするのかとなった時に、「パフォーマンス」をしようとなったんですが、「パフォーマンス」という言葉ひとつをとってみてもみんなのイメージすることが全然違っていた。発表会直前にすら、みんなが思い描いていたものの違いが出てきたことが面白かったです。
千⽥ひなたさん(以下:千田):企画発表会直前は、2日に1回くらいでZoomのミーティングをしながら進めていました。「障害のある人もない人も同じ場所で体験できる面白いこと」を企画したい!ということから始まって、イマーシブシアターの構想をふくらませていったのですが、いつもアイデアがもりもりで……!私は企画制作者でもあるので、どこかで落とし所を見つけなきゃ、となりがちなんですが、そもそも今回は、問い自体に正解がないものですし、メンバーにどんどんアイデアが沸く人がいたり、プロセスを楽しみたい人が多いので、時間をかけてこだわり尽くしています。グループの中には視覚障害をお持ちの方の同行援護をしているメンバーや、ご家族に障害をお持ちの方がいるメンバーがおり、そういう実体験を聞くところから企画が始まっていきましたね。
今野はるかさん(以下:今野):うちのチームは、徹底的に話をすることに重きを置いている感じです。1日のミーティングでトータル7時間くらい話していた日もありますね…。自分が「宿題ができないタイプ」ということもあってか、メンバーも話した方が早いというか感覚派の人が多い気がしています。話しながらああでもない、こうでもないという感じ。話し合いをすることに対して投げ出す人間がいない。バンバン意見を出す人もいるし、ゆったり考えたい人もいるので、みんなが心地よく議論を進められる場づくりができるように心がけていました。
児島美穂さん(以下:児島):皆さんの長時間ミーティングのお話を聞くと、うちのチームは、圧倒的に喋っている時間は少なかったかもしれません。そこは悩みに近かったのですが、その分どうやって自分が思い付いたことや考えたことを伝え合えるのかを考えていました。現実的に何か企画を立てることに向かって、キビキビと、議論が進んでいる感じ。自分の考えをシェアする方法を、メンバーそれぞれが、悩んでいたのかもしれません。
お題に対して、浮かべる内容もまちまちでした。中間支援をしている人、劇団をやっている人、文化事業の実施に携わっている人。メンバーそれぞれ、劇場との距離感がそもそも違ったので、どの立場で劇場について考えるのかという点で、苦労もしたし、勉強にもなりました。
「バリアをどう乗り越えるのか」ということを、自分たち自身、グループワークを通じてやっている感じがしました。
- スタート当初から変化していったことはありますか?
千田:個人的には、分かり合えなさを楽しめるようになったことが大きいです。はじめは、オンラインでうまくコミュニケーションをとっていけるのかという不安もありました。でも、うちのチームは、ストレートに意見を伝えるタイプの方が多くて、それがかえってよかったです。意見が合わないこともあるし、年代や環境によって価値観が違うということが前提にあって。私自身、これまでは自分と他者との間に壁を引いてしまう思考の癖があったのですが、話してみたら、互いの想いは知り合えるし、前に進めるのだということに、気付かされたんです。自分と違う人を遠ざけずに、一旦出会ってみるということが必要だなぁと思いました。
そもそも、障害を持っていたり、普段見えづらい問題に対する姿勢を持つことが、私自身の“生きにくさや困難”と相性が良かった、繋がりやすかったと思っています。つまづきやすかったり、心身を崩して、劇場の空間が全部毒となってしまったことがあったりしたんです。情報保障をするにも、単なる知識の引き出しを作ればいいのではなく、想像するだけでもなく、その二つを組み合わせていくことが必要だと学びました。
今野:私は、劇場職員になってまだ1年です。新参者として、語ること、語彙を増やすことをひとつの目的として参加しました。チームに、同じような志望動機で参加している人もいるんですが、ミーティングの中で、その人が話を止めて、「その話もう少し聞きたいので、もう少し語ってもらってもいいですか?」と差し込んだりすることがあった。そうするとしどろもどろになりながらも、言葉にしないといけない。それがすごく大切な体験だったんです。訊かれた本人も語りながら、改めて考えて、深く納得したりするし、聞き手も「あ、そういうことだったんですね」と深く知る。問うことの大切さを感じた瞬間でした。
日々忙殺されていると、着地点や妥協点がわかった状態で話を進めることを求められる。でも、今回ご一緒したチームの皆さんは、結構感覚派だったし、「とりあえず最後まで聞いてみる姿勢」があった。原点回帰というか。同じ方を向いていないとしても、同じレベルで相談し、語り合えたのがありがたかったです。
児島:私は、今の仕事をし始めて5年経ちました。中間支援の業務って、「一歩引いている」感じがするのが、最初は違和感で、でも、自分にもその感じが染み付いてるなと思って。今回は引いている場合ではなかったんですけれど(笑)、それでも、どうしても業務の癖で、先に人の話を聞き取ろうとしてしまう。私って、思った以上に自分のことを開示していなかったんだ、ということに途中で気づいてハッとしたんです。ベースが受け身になりすぎていた。
組織でも、内部の合意形成をしなければならないようなことと向き合うと、横同士の考えをシェアすることや上に伝えていくことも大事だけれど、まずは自分の思っていることをぶつけないといけないなと思いました。
浜田:考え方が変わったとかじゃないんですが、メンバーの野口さんがアーティストなので、プレゼンの方法が興味深かった。みんながこれまで議論してきたことと、野口さんを中心に、「アーティストとしてパフォーマンスする」ことを実現していく過程。抽象的な議論から、パフォーマンスに落ちていくこともそうだし、このプロセスを通じて、チームのメンバーの具体的な部分が明らかになっていくのが面白いなと思っていました。
- 今後のご自身の活動や今回の講座の延長で何か取り組もうと思っていることはありますか?
児島:ダンスのカンパニーの制作でもあるので、今回出た具体的な企画や考えをメンバーにもシェアして、実際に何か、世に出る形にしたいなと思います。
浜田:チームのメンバーは、とてもバラバラだし、この後はどうなるかわからないけど、会おうと思って、きっかけがあれば会える人もいるかなと思います。
今回の企画に参加して、「人を頼ること」あるいはそれが上手くできないということが、身身体(からだ)と強くかかわる話題であって、そしてそうであるが故に、議論したり話題に上げること自体難しいことなんだと気づきました。頭ではわかっていても相談できない。僕は身体行為の研究をしているので、「身体的なことは絶対言語化できない、議論できない」とは必ずしも思いません。でも、他人と話すのは難しいのではないかと躊躇してしまう。障害にもそういう部分が強くあるな、と思いました。
これから、直接“障害”を扱うかは、分からないのですが、「企画がうまくいかない」とか、アーティストのプロセスで起こる様々な課題と今回対峙した障害の話には共通項があると感じるので、これからの活動の中で、この企画で経験したことも反芻するんだろうなと思いました。
千田:今、大学3年生で、こういう気持ちをどこに生かしていこうかということはまだ定まっていないのですが、絶対に無駄にはならないだろうと思っています。独学でデザインを勉強したりもしているので、WEBのアクセシビリティなどについて調べることも増えました。卒論のテーマなどとも関連づけて、この学びを還元していきたいと思っています。
今野:私は、劇場の職員という立場にいるのですが、「来てくれた人とその先どうしていくの?」という命題、今の悩みと、今回のプログラムは繋がっていました。前職はアウトリーチ担当が多くて、そこではきっかけ作りをする役割だったと思っています。、劇場職員になってみると、劇場の中で起きていることは、劇場に来た人にしか還元できない。きっかけづくりなら「もっとできるののでは」と思っていた。でも一方で、劇場に来た人にも、もっとできることも考えなきゃと考えた1年でした。うちは比較的、人が集まる劇場だと思っていますが、来てくださる層がさらに広がっていくよう、いま来てくれている人たちとともに10年、15年先を考えていきたいと思います。