生きる力を養うための芸術、ダンスの力とは?
precogそしてTHEATRE for ALLに辿り着くまで
私は幼い頃からモダンバレエを習い、高校では創作ダンス部に所属し、大学は舞踊学専攻というところを卒業しています。舞踊学専攻では岩淵多喜子研究室に所属しコンテンポラリーダンスに取り組みながら、松澤慶信研究室でバレエ・リュス『ペトルーシカ』についての論文を書いていました。4年間の大学生活を過ごす中で制作という舞台芸術に関わる仕事があることを知り、国際舞台芸術ミーティング in 横浜(通称TPAM、現在はYPAM)のインターンに申し込み、在学中から現場経験を積みましたが、いざ就職となった際に新卒を採用するような制作会社はあまりなく、研究室の先生に拾われるような形で助手として大学に勤務をしました。3年間の任期を終えるタイミングでちょうどprecogが社員の求人をしており、これだ!と思いエントリーし、運よく採用されました。はじめの配属はアーティストとの関わりが多い公演制作やクリエーションを担うチームでしたが、次の年にバリアフリーコミュニケーション事業部(現THEATRE for ALL事業部)に異動となり、そこで恥ずかしながらはじめてユニバーサル、バリアフリー、共生社会…といった言葉たちと向き合うことになりました。
「生きる力」を育むためのツールとしてのダンス、そして芸術とは
舞台芸術とは少し別のお話ですが、私の大学は体育大学のため、舞踊・ダンスについて学ぶことと並行し、中学・高校の保健体育科教員免許を取得しました。想像していただきたいですが、これまでダンスしかやってきていないので、球技はもちろん陸上などのスポーツは得意ではありません(マット運動はちょっとできます)。けれど、体育の授業ではサッカーやバスケの技術を教え生徒たちがそれらをできるようになるのではなく、スポーツを通じて他者とのコミュニケーションの力を養い、自分の課題を見つけ解決するための策を考えることなどが重要なポイントです。指導要領の言葉を借りて説明するならば「生涯にわたって健康を保持増進し、豊かなスポーツライフを実現すること」が保健体育の授業の目標です。つまり、保健体育の授業において、スポーツは「生きる力」を養うためのツールであり、これは私にとって身近なダンス、そして芸術にも通じることだと感じるようになりました。
非言語のコミュニケーション、ダンスの力
モダンバレエというジャンルを長く踊ってきたせいか、脚を高くあげられる、何回転も回れる、高くジャンプができる、表現力がある、、という技術を評価されることに自分自身も慣れてしまっていましたが、上で触れたような「生きる力」を養うことがダンスにはできる、と思い至ってからは、自分が今のこの仕事でダンスとどう関わっていきたいかを考えるようになりました。
よく言われますが、ダンスは言葉を必要としない身体芸術でもあります。これは使う言語が異なる相手や、言語でのコミュニケーションが苦手な方、異なる身体性を持つ相手とも、大きなバリアを感じることなく共に楽しむことができる、ということだと私は思っています。もちろん工夫や配慮が必要な場面もあるでしょうし、心のバリアフリーは不可欠だと思いますが、ダンスというツールによって越えることのできるバリアはきっと身近にあるでしょう。そんなことに思いを巡らせながら、バリアを超えた先にどんな場が広がっているのか、どんな人に出会うことができるのか、そしてそれは社会にとってどんな働きがあるのか、考えていきたいと思います。
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執筆者プロフィール
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田澤瑞季プロデューサー1995年生まれ。日本女子体育大学舞踊学専攻卒業後、助手として3年間勤務。2021年4月にprecogに入社し、アーティストプロデュース事業部配属ののち、THEATRE for ALL事業部に所属。モダンバレエ、クラシックバレエ、創作ダンス部を経て大学在学中はコンテンポラリーダンスに取り組む。自身が踊っていた頃に経験した、袖幕から見る舞台の景色、開演前の照明が暗転する瞬間が好きで舞台芸術の仕事に就く。好きなものは旅行・料理。