投稿日:2022/12/13
来たる12月〜1月、演劇やダンス作品の映像をデジタルアーカイブしているEPADから、5つの作品がTHEATRE for ALLで配信されることになりました!
実はEPADと私たちTHEATRE for ALLは、共に新型コロナウイルス感染症の感染が拡大し、演劇やダンスの公演、音楽のライブが次々と中止を余儀なくされ、いつ活動が再開できるかもわからなかった時期に、視点を切り替えることで誕生したプロジェクトです。EPADのアーカイブ事業とバリアフリーなオンライン劇場であるTHEATRE for ALLの配信サービス事業それぞれのノウハウを生かし、舞台芸術界の価値ある財産を守り検証しながら、またこれまで舞台芸術の魅力を届けられなかった皆さんに舞台映像を通してアプローチしていく取り組みです。
EPADとは?
EPAD(イーパッド)は「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業」の略称で、2020年度から舞台芸術の公演映像、戯曲、舞台美術資料など約4300点を収集しデジタル・データとしてアーカイブ化しました。そのうち約300本の舞台公演映像は、オンラインで閲覧可能な状態となるよう、関係する権利者からの許諾を得ています。EPAD事業で収集した約1300 本の舞台公演の映像の情報は早稲田大学演劇博物館が運営するJAPAN DIGITAL THEATRE ARCHIVES(略称JDTA)で、戯曲については日本劇作家協会が運営する戯曲デジタルアーカイブで検索することができます。
文化のロビー活動が実を結んだEPADの意義
2020年2月、政府による突然の自粛要請で公演中止・延期を余儀なくされた舞台芸術界の損害額調査を実施したことをきっかけに、演劇制作会社、劇場、劇団、日本劇作家協会などの多彩な団体が集い、「緊急事態舞台芸術ネットワーク」(2021年9月に一般社団法人化)が結成されました。以来、省庁や国会議員との折衝を重ね、さまざまな支援を引き出し、今も感染予防のガイドラインを作成するなどの活動をしています。このネットワークが画期的なのは、業界が一丸となって国の文化政策に意見・提案する道ができたことです。そして緊急事態舞台芸術ネットワークと「モノだけではなく、価値をお預かりする」の理念に基づきアートやメディア保管をしている寺田倉庫が、文化庁令和二年度戦略的芸術文化創造推進事業「芸術文化収益力強化事業」の採択を受けてスタートしたのがEPADです。当初は、劇団に眠っていたままの舞台映像など貴重な資料を募集し、権利処理が可能な作品については商用配信可能とするための複雑な権利処理をサポートし、主催団体・関係者に収集対価・権利対価を還元していくという取り組みを行いました。
緊急事態舞台芸術ネットワークの理事、伊藤達哉さん(ゴーチ・ブラザーズ代表)はこう語ります。
「EPADは、これまでなかった文化産業のインフラになる大きな可能性を秘めています。基本的には寄贈いただく資料によってデータベースを豊かにしていくことで、未来の、世界の方々に現代日本の作品を届けることができるのです」
壁を壊し選択肢を可視化することで動き出す、舞台芸術の社会化
同じく文化庁令和二年度戦略的芸術文化創造推進事業「芸術文化収益力強化事業」によって生まれたのが映像配信サービス、THEATRE for ALLです。演劇の制作やイベントの広報などを行っている株式会社precogが運営しています。
precog代表の中村茜は「理由があって劇場に来られない方々、劇場から離れざるを得なかった方々に、作品と出会う機会を提供できればと立ち上げました」と語ります。
大小さまざまな配信サービスが百花繚乱状態の現在、それらとTHEATRE for ALLが違うのは、手話や字幕、音声ガイド、オンラインイベントにおける文字支援や手話通訳など、さまざまな手法でのアクセシビリティを実践している点にあります。また、precogがこれまで培ってきたアーティストとのつながりや創作活動の実績を生かして、作り手と共に作品主題や狙いに沿ったアクセシビリティの表現を開発している点や、合わせてラーニングプログラムをつくっている点なども、ほかにはない特徴です。
「これまで演劇やダンスは地方の方々、障害のある方々に開かれてきませんでした。その壁を壊したいと考えました。選択肢を増やすことで、より多様な方々に演劇やダンスが伝わり、社会化していくことが私たちの目標です」
多様な人びとが交流する仕組み−−ラーニングプログラムや「2つのQ」シリーズ
THEATRE for ALLの活動は配信に留まりません。多様な人びとが交流する仕組みが設けられています。
映像作品を見て語り合うことができる哲学対話の場、アーティストによるワークショップ、作家の創作秘話を語るトーク、障害のある人とない人、高齢者などが一緒に居られる場づくりのノウハウを伝えるファシリスクールなどなど。日常には障害のある人とない人が一緒に活動したり、対話する機会がないことから、こうした場が必要だと考えました。また解説動画『2つのQ(キュー)』は、手話通訳・バリアフリー日本語字幕付きの約10分程度ウォーミングアップ動画です。多彩なアーティスト・専門家の解説をとてもわかりやすい言葉で聞くことができます。鑑賞前でも、後でも、ご覧いただくと作品世界への理解が深まります。
EPAD×THEATRE for ALL
舞台芸術文化の次の一歩へ
そして、いよいよEPADとTHEATRE for ALLのタッグが実現します。EPADが今年新たに権利処理を行った作品群のうち5作品について、音声ガイドや字幕など情報保障の費用をサポートした上で、映像をバリアフリー化するに至りました。
EPADには、日本の舞台芸術史における貴重な作品から気鋭のアーティストによる最新作品まで、舞台芸術を俯瞰するような多彩な作品がそろっています。今後もこのようなプロジェクトが継続できるよう努力していきます。
配信作品
12月配信
愛知県芸術劇場とDance Base Yokohamaが共同製作した公演「ダンスの系譜学」のプログラムとして、国内外で類を見ない活動を展開しているチェルフィッチュの岡田利規と、日本を代表するバレエダンサーの酒井はなという異色の顔合わせが実現。世界中で踊り継がれてきたフォーキン原作『瀕死の白鳥』を題材に、白鳥の死因に迫ることでバレエの様式を解体し、現代のパフォーミングアーツの新たな局面を切り開きました。
岩手・花巻出身の宮沢賢治の人生を描いた、故・井上ひさしさんの名作です。9回も上京した賢治。そのうち転機となった4回の上京を、あの世に旅立つ亡霊たちや賢治が描いた童話の世界の住人と共に、夜汽車の中の物語をつづります。
1月配信
「演劇を ままごと のようにより身近に。より豊かに。」劇作家・演出家の柴幸男を中心に旗揚げされた劇団ままごと。2013年より継続的に小豆島での作品創作・発表を行ってきた同劇団が、瀬戸内国際芸術祭2022では演劇的な仕掛けに満ちた短編二作品を小豆島と豊島で上演。本作は、その創作の様子を紹介する貴重なドキュメンタリー作品です。
オル太は井上徹、川村和秀、斉藤隆文、長谷川義朗、メグ忍者、Jang-Chiの6名によるアーティスト集団で滑稽かつ批判的な眼差しから日常を切り取り、都市における無意識の振る舞いを、人や物として演じることで自在な表現を展開しています。ロームシアター京都×京都芸術センター U35創造支援プログラム“KIPPU”に選出された作品をお届けします。
2018年に藤田貴大が初めて取り組んだ、子どもから大人まで一緒に楽しむ演劇作品として発表。2019年、2021年と少しずつ変化を加えながら各地を巡演してきました。おねしょに悩むおんなのこは、飼い猫のにゃあにゃあちゃんから聞いた古い言い伝えを叶えるため、夜の森へ出掛けて行きます。しりとりなどのゲーム要素やしゃぼん玉などを使ったり楽しい要も交えながら、少女の成長や自立、戦争というモチーフを描きます。
オンライントークイベントを開催!
ーーこのイベントは終了しましたーー
伊藤達哉(EPAD実行委員会/緊急事態舞台芸術ネットワーク/ゴーチ・ブラザーズ)、唐津絵理(愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデューサー/Dance Base Yokohama(DaBY) アーティスティックディレクター)中村茜(パフォーミングアーツ・プロデューサー/株式会社precog 代表取締役)が、舞台芸術業界におけるアクセシビリティの課題をあぶり出しながら、登壇者それぞれの視点から情報交換し、多様性社会における鑑賞体験を切り開く道を模索します。